
花火
夜も1時すぎ。京都は鴨川沿いのO邸での最後の晩。なにやら窓の外から、元気な声がきこえてきた。
O邸は友人夫妻の日本での住居兼プライベートなゲストハウス。このごろの関西での滞在のときには、とってもお世話になっている。今回は、フラワーエッセンス療法学会主催の六甲高山植物園でのユリの観察会と、京都での交流会に参加することもあって、四日間の居候をさせてもらった。
ここの二階には、こちらのご主人の友人でもあるatelier KIKAの北島庸行さんが作られたという、10人以上で囲める大きなくるみの木のテーブルと長いベンチがあって、いつも大らかに出迎えてくれる。無垢の木の素直さと頑丈さが伝わってくる潔いデザイン。装飾らしい意匠は何ひとつない、すっと背筋が伸びるような佇まいのテーブルとベンチ。どんな立ち姿のくるみの木だったのかな…と、木肌をなでながら、しばし感じてみる。
自分にとって、ここの二階から河原を行き交う人や鳥たちを眺めながらしばしの時間を過ごさせてもらうことは、大きな自然の中で身を委ねるのと、すこしだけ似ている感じがある。
目紛しい日常でついつい忘れてしまうような、あの感覚にすいっと繋がれるゲートのひとつでもある大切な処。
連日30度を超すような、夏の京都の空気は湿度が高くて、メラメラと照りつける太陽は熱く、大気の密度があるというか、なんだか水の底を歩いているような感じがするときすらあった。そして、街全体が大きく守られ続けている感覚が、以前にましてはっきりと感じられるようだった。
荷造りを済ませて、大好きなテーブルとベンチにも今回の滞在のお礼を伝えて、眠る支度をしていたら、窓の向こうの河原で誰かが花火をはじめている。
近寄って暗闇に目を凝らすと、夜更けだけれど小学生ぐらいの子もいるみたい。両手に花火をもって上手にぐるぐるまわしたり、かなりの腕前とお見受けした。しかし、こんな夜中に…子どもだけで? と、一瞬、心配だったけれど、大人もいっしょにいるようで安心する。そう今は、ビバ夏休み。夜更かし最髙!
ときどき着火のインターバルで、種火だけになって暗くなったりする様子をしばらく窓越しにながめる。
花火はいいねぇ、楽しいねぇ。
大きな花火には迫力があるけど、手持ちのちいさい花火には味わいがある。花火をするなら、なるだけ街灯がすくない暗いところでするのがいい。
それが流れる水のそばなら、もっといい。
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by tariho 2012/8/16