みんな、どんなふうに働いて生きてゆくの?

奈良の県立図書情報館で、二年前から開催しているフォーラム「自分の仕事を考える3日間」から生まれた本が、12/3から書店に並びました。

タイトルは『みんな、どんなふうに働いて生きてゆくの?』(弘文堂)。登場する人々はこの9名。
 友廣裕一(ムラアカリをゆく)
 三島邦弘(ミシマ社代表/出版人)
 馬場正尊(Open A 代表/建築家)
 土屋春代(ネパリ・バザーロ代表)
 向谷地生良(ベてるの家/ソーシャル・ワーカー)
 隅岡樹里(CAFE MILLET オーナー)
 江 弘毅(編集集団140B総監督/編集者)
 松木 正 (マザーアース・エデュケーション代表)
 枝國栄一(くずし割烹 枝魯枝魯店主/料理人)
*各者の少し詳しい紹介は、ページ末尾をご覧ください。
プロを名乗る気持ちのない自分ですが、それでも話を聴かせて欲しい人たちがいてインタビューを重ねてきて、この本はすごく嬉しい一冊になりました。
 
30歳前半の頃、AXISという雑誌で「レッツワーク!」という連載を始めたのが、後年『自分の仕事をつくる』に収まってゆくインタビューの仕事の始まりです。
その頃の僕は、立花隆さんがどこかで「自分の仮説を証明するために人の話を聞きにゆく」と書いていたことをその部分だけ拾って、働き方や仕事をめぐって考えてきたことを立証するというか、裏をとりにゆくような気持ちで取材を始めていました。
でもそのスタンスは最初の1〜2回で敢えなく壊れます。目の前で話を聞かせてくれた人たちは、自分の仮説の中には収まりきらなくて、ずっと大きかった。
それでインタビューのスタンスが、仮説検証から、人物画を描くようなものに変わり、気がつくと「風景画」を描くような時間になっています。
 
今回、本のあとがきにこんなことを書きました。
「僕にとってインタビューという仕事は、その人が生きてきた経験世界をご本人の案内で探訪し、一緒に歩いて、その風景や細部の豊かさに見入り。追ってそれを風景画に描くような作業です。」
本当にそんな感じで、今はちょっとした旅から帰ってきたような気分で。インタビュー本というより旅の本みたいだなと、読み返してみても思う。

奈良のフォーラムの特徴は参加者同士が話している時間が多いこと。二年目のゲストの江弘毅さんが、ポツンと過ごしている様子。:-)

やらされ仕事をただこなしてゆくような、握力の弱いあり方を望ましいとは全く思わない。
けど、「自分の仕事をつくるべきだ」とか「働くことを通じて自分を表現するべきだ」というような、自己実現を促す言説にも実はあまり乗れないんです。『自分の仕事をつくる』というタイトルの本を書いておきながら、なんだけど。
好きな仕事をしているわけでもなくて、家の代々の生業をさしたる葛藤もなく受け継いでいたり、あるいは今日生きるために身体を売っているような人もいて、そういう人たちの中にも、本人に会うと思わず居ずまいが正されるような人たちはいる。
「べき論」で生きているわけではない人たち、というか。リアリティがあるというか。
夢を描いて達成してゆく人たちの輝きとは少し質の違う、そんな人たちの明かりに目を凝らしていると、添える言葉は『みんな、どんなふうに働いて生きてゆくの?』という、ひとり言のような問いになる。
この本でインタビューを交わした人たちのことも、僕にはそんなふうに見えている部分があります。一言でいえば、懸命に生きている人、というかな。
彼らが見せてくれた風景を、同じ時代を生きている他の人々と分かち合えたら、と思っています。
 
インタビューイの紹介:
友廣裕一さんは、昨年限界集落とも呼ばれる地域で暮らしを営む人々を、ヒッチハイクと出会いを手がかりに訪ね歩いて、彼らの仕事を手伝いながら日本一周の旅をした人(当時25歳)。
三島邦弘さんは、『街場の教育論』『ほしいものはなんですか?』『書いて生きていく プロ文章論』などのヒット本をドタバタと順調に放ちつづける出版社・ミシマ社の代表。
馬場正尊さんは、東京R不動産や、東東京への職住移動が始まるきっかけを生んだイベント「CET」を手がけてきた編集センスの高い建築家。
土屋春代さんは、ネパールの生産者と日本の人々の暮らしをつなぐフェアトレード団体・ネパリバザーロの代表。最近フェアトレードという言葉を使うのをやめた?
向谷地生良さんは、精神に疾患を抱える人たちが共同生活を営む、北海道・浦河の地域拠点「べてるの家」の中心人物。弱さを絆に、彼らとリアルな仕事づくりを重ねてきた人。
隅岡樹里さんは、京都北部の静原という集落にある実家を一部改装して、カフェのような、子どもたちや親や、仲間たちの集う空間を育てている女子。
江 弘毅さんは、多くの人に愛されてきた関西の情報誌・ミーツリージオナルの元編集長。岸和田だんりじ祭りでは、総責任者もつとめている。
松木 正さんは環境教育を軸に、子どもたちや、その親、まわりにいる人々とのかかわりを重ねるファシリテーター。北米インディアンのある部族とのかかわりも深い。
枝國栄一さんは京都で、予約を取るのがきわめて困難な(でも非常識に低価格の)割烹料理店・枝魯枝魯をひらいた料理人。京都店は若手に任せ、今はパリ店で腕を振るう。ハワイ店の開店準備中。
 
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『みんな、どんなふうに働いて生きてゆくの?』(弘文堂)
価格:1,890円(本体価格1,800+消費税)
*リビングワールドのサイトでの販売は終えました。最寄りの書店か、Amazon等のオンライン書店でお求めください。
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by 2010/12/3