プレデザイン・2013

年に一度、1月下旬から2月上旬にかけて、世田谷区上野毛の多摩美校舎でおこなっている授業「プレデザイン」の、一般参加可能な日程が決まりました。
ゲストを招く公開授業を期間中、今年は5晩もちます。(各回とも夜18〜21時10分)
 1/24(木) 佐藤直樹さん(ASYL)
 1/25(金) 今泉真緒さん(日本科学未来館)
 1/28(月) 島田潤一郎さん(夏葉社)
 1/30(水) 山口 優さん
 1/31(木) 内田順子さん(COMMUNICATION ENGINEERS)
 2/4(月) 山口 優さん(マニュアルオブエラーズ)
参加方法:
・社会人、他大学生、高校生の参加を歓迎します
多摩美上野毛校舎 本館-301で18時〜21時10分まで
・教室に直接お越しください(お申込みは不要)
 └ 図の「A」が本館です
・途中からの参加は原則としてお断りします
・ちなみに学生数は、全員出席で60名程度です
 
美大のデザイン科では、年間を通じて造形訓練のための課題制作授業が重ねられています。
造形力などの取り柄をいかして、社会に自分の居場所を見出してゆく上で、そのトレーニングはとても重要なものだと思います。
が、この「プレデザイン」ではその造形訓練から少し離れて、デザインという仕事と自分の関係性を、学生が確かめ直す時間をつくることに注力。
外部ゲストの人選も、その観点から行っています。

 佐藤直樹さんは今でこそ多くのプロジェクトで頼りにされるアートディレクターであり、グラフィック・デザイナーですが、学生時代に目指していたのは「僻地教育」で、教育学部で学ぶ若者でした。
 その後彼が工事現場の土方(どかた)を経て、神田美学校に入り直し、かなり無理目のハッタリをかましてデザインの仕事に携わっていった冒険的な経緯は、多摩美の学生たちもあまり知りません。
 小さな頃から家のカレンダーを毎年自作していた少年は、どんな求めを抱えてデザインという仕事に接近し、いまどんな想いをめぐらせているのか?

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 今泉真緒さんは2年ほど前に、日本科学未来館で「地球マテリアル展」という画期的な展示プログラムを企画・制作しました。デザイナーたちが日々大量に扱っている、「木材(森林)」や「プラスティック(石油)」「金属(鉱物)」といった自然素材について、各分野の先端的な科学者のレクチャーを企画。
 声をかけられたデザイナーたちは、これまで何気なく使っていた素材の特性や課題についてあらためて学び、その上でどのようなモノづくりが可能かを試み、その成果が展示されるという素敵な企画でした。
 エコをうたおうがリサイクルされようが、モノをつくる営みは必ず地球資源を使い、表現が単純ですがいずれゴミに転化します。その全体像を踏まえて、モノづくりの全体像を掴むには?

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 島田潤一郎さんとは、実は初めてお会いします。彼は2011年から『昔日の客』『星を撒いた街』など、愛好家にはたまらない一冊を毎年少しづつ出版してきた人。考えて、必要な人に声をかけて形にして、自分で営業して書店に卸し販売する。一連の仕事を、ご自身が創設した夏葉社で、一人で行われていると聞きます。
 デザインは可能性に気づいて、それを「どう?」と具体的な形にしてみせる仕事だと思うのですが、クライアントから与えられた課題を解く仕事だと捉えている人も多い。まあいいけど。
 島田さんは「これ、いいと思う」「みんなも欲しいんじゃないかな?」と、社会と自分が重なるところで仕事を生み出している。僕はとても共感するのですが、彼自身はどんな思いで働いているんだろうか?

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 山口優さんは音楽家であり、複数の音楽家が所属するマニュアル・オブ・エラーズという会社の代表でもあります。〝音楽家〟というとアーティスト的なイメージで捉える人が多いと思うけれど、実際に作曲や演奏で生計を立てている人の多くは、アーティストというより、デザイナー的な動き方で機能していることが多い。このことを僕にハッキリ認識させてくれたのが、山口さんです。
 美大のデザイン科に通う人たちは「アート」と「デザイン」の線引きに逡巡することがある。これは教えている先生たちが作家主義に冒されているときに生じやすく、結果として制作物を無意識過剰に「作品」と呼んだりする現象が生じていると思います。
 その勘違いを、山口さんの話はわかりやすく照らしてくれるかも。あるいは、さらに混乱させられることになるのか?

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 内田順子さんには、昨年も授業に来ていただきました。彼女はある制作プロダクションのスタッフ・デザイナーとして、MUJIの全カタログや、企画モノのウェブコンテンツを手がけている人です。若手。
 大手代理店のクリエイティブ部門で足腰を鍛えて、30代で独立し、自分のデザイン事務所をひらいて、メジャーな仕事をバシバシ手がけてゆく…ようなスター・デザイナーのあり方に眩しさを感じる学生は多いかもしれないけれど、それはごく一部の話だし、そこに至らないデザイナーは「まだまだ」なんてことはもちろんなくて。
 この世界の「いい」質感は、名前などほとんど知られていないどこかの誰かが、なにかをあきらめずに「もうちょっと」頑張ったり楽しんだ結果の累積だと思います。昨年彼女の話を聞きながら、僕はそんなことを思っていました。一年経って、いまどんなことを考えながら働かれているか? お話をうかがってみたい。

 
一般参加を歓迎している理由は、同じ話を聞いて感じたり考えたことを話し合う相手が、自分と文脈や背景を同じくしない人(年齢や分野や経験の異なる人間)であることが、学生たちが「自分の言葉をつくる」機会になると考えているからです。
3時間ただ話を聞いてオシマイという授業ではなく、少し話をうかがっては、隣近所の人(含む学生)と「どう聞いた?」と軽く交わし合ったり、みんなと一緒に僕もゲストに問うたり語りながら進めます。
この授業はあと二年で終了します。卒業生も含み、ぜひお越しください。:-)
 

by 2012年12月7日