旭川の家具工房へ

品切れ中の「In this time:宇宙の塵が降ってくる時間」の砂時計が、葛飾区の職人さんから届いた。職人さんの工房に残っていたマレーシアという自然砂を、すべて使わせてもらった最後の30個。
それを携えて、北海道の木工職人さんに会いに行ってきました。

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旭川市郊外で家具づくりを手がけている、国本さん夫妻。

木工職人の国本さんご夫妻と、樹種のこと、ヤスリの粗さのこと、砂時計の内容についてとか、いろいろ話を交わすこと2時間少々。
「わざわざこんな遠くまで」と国本さん。人づてに紹介していただいていたので、実はお会いするのは初めて。
リビングワールドは、マスプロダクション的な量産とクラフト的な少量生産の中間あたりで、ものをつくっている。自分たちだけでは完成させられないものが多いので、効率という観点では、クラフト的なモノづくりよりさらに手間がかかる。
その上こうして遠くまで出かけたりするわけで、経済的な間尺に合っていないのは百も承知です。国本さんの言葉には恐縮だけでなく、あきれている感じも少し混ざっていると思う。
でも、どんな人が・どんな場所で作ってくれているのかを知っておきたい。彼にしてもそれは同じだし、その方が嬉しいこと・楽しいことは、事情が許す限り現実化したい。
人に言われて働いているわけではないし、僕らがこういう調子でモノづくりをつづけられるのも、人生の中で限られた時間の中のことだと思うから。

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国本さんの工房。知り合いの大工さんが、「うちの敷地に建ててあげるから自分の工房をやりなよ」と声をかけてくれたらしい。

国本さんについても、初めて知ることが多かった。
彼は60才。五年前にこの工房をひらいて、化学物質過敏症の方々のための家具づくりを、奥さんと二人で重ねている。
以前までは普通の木工製作所で働いていたらしい。過敏症の方々のための家具づくりを始めたきっかけは、本人の意志というより流れの中でのことだったようだが、工房の空気も清らかで心地良かった。
「ボンドは使えないし、過敏症の方はちょっとした物質にも反応してしまう。だから、普通の木工工房で一緒につくることは出来ないんです」と国本さん。
リビングワールドの砂時計には、セラリカという天然素材のWAXを使っていたのだが、メーカーが製造を止めてしまったそうで、新しいWAXを見せてもらった。いい香り。
この手のものではオスモ(OSMO)が有名で入手もしやすいが、時々反応が出てしまう人がいるのだそう。蜜蝋でも反応してしてしまう人がいるんです、と聞かせてくれた。

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横の壁が破けているストーブ。「暖かい(笑)」

外国から運ばれてくる木材の多くには防腐剤が使われているので、もちろん使えない。

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工房の一角の木材置き場。過敏症の人の家具にも使える材は、ある会社の倉庫にキープしていただいているとのこと。

いい材が少なくなっていますよね、という話になる。リビングワールドが2005年にmonokraftと試作した砂時計にはチーク(Teak)を使えたが、今は良質のオイリーな木肌を持つチークをあまり見かけない。
タイやインドネシアでも伐採は制限されているはずだから、出回っている方がそもそもおかしい。
砂時計の木枠に桐を検討していた時期があって、岐阜の職人さんに会いに行ったことがある。その時も中国産の安い桐材の話になり、成長が早いため目が詰まっていなくてボソボソで、まるでバルサみたいで使用をあきらめた。
木材の話に限らず、自然界の話をしていると、だいたい密度の話になる。魚も、鳥や森の生物についても、密が減り疎が増えているという話。
私たちの生きている世界全体で、エントロピーの増大が進んでいるということ。その中で、「にも関わらず」密なものをつくりたいと思うのだけど…。

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奥さんがトンボを捕まえてきて見せてくれた。「昨日から、窓にたくさんとまっているのよ!」。

旭川は木工どころで、数多くの木工家具メーカーのひとつに「北の住まい設計社」という工房がある。
値段は張るけど手触りのいい家具が多く、前から気になっていた。国本さんは、その創設メンバーだったという話を聞いて驚く。
北の住まい設計社は、渡辺さんというデザイナー夫妻が始めた家具メーカーだ。工房の職人頭として10年ほど腕を振るったが、技術的背景のない就職希望者の増加に、教え疲れをして離れてしまったとのこと。
同社のスタンダードラインの試作や取りまとめを一手に担っていたらしい。
つまり、あの質感と品質の家具が好きで、かつ過敏症の方がもしこのページを読んでいたら、国本さんに仕事を頼んでみるといいと思うのですが、これはお節介か。

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今はご夫婦ふたりで、マイペースでの仕事を重ねている。「遊びのようなものです」と笑っていた。
若い頃は徹夜でやっていた時もあって…という話も聞いたものだから、その頃に比べればノンビリした気持ちになるかもしれないけどと口を挟むと、「いや、昔のように新しいことを学ぶとか、なにかをものにしてゆく張り合いのようなものが減ってきて」と、独り言のようにつぶやく。
その後ろ姿を、奥さんが微笑んで見つめていました。
国本さんの家具の注文は、
 環境家具工房(国本暢良) FAX:0166-63-1213
まで。
 
話を「宇宙の塵の砂時計」に戻すと、旭川で木枠に収まったのち、横浜でレーザーマーキングの工程へ。5月中旬頃にはお届けできると思います。
LW

by 2008/4/11