子どもたちと観る
夏休みが終わる前に、子どもでにぎわう映画館へ行ってみませんか? 私たちはお盆の頃に『崖の上のポニョ』を観たのだけど、すごく楽しかった。
「すごいねえ」「はじまるね」「こわいねえ」「美味しそうー」「ワーーーッ!」と、とにかくみんなよく喋る。スクリーンにご飯が出てくると、映画館全体がゴクッ…と生唾をのんでいるのがわかる。(笑)
歌が始まると踊り出す子も多く、なんというかロッキーホラーショーというか、映画館で映画を観る楽しさをひさしぶりに満喫しました。
この日わたしたちは、三鷹のジブリ美術館にも行ったのですが、あそこには小さな映画館がついていて、劇場未公開の短編アニメを上映しています。
館内子ども濃度はさらに高く、客席全体から「あぁー」とか「へーっ」とか「む…」とか「おもしろいーい!」といった声が出っぱなし。
みんなで一緒に船に乗っているような鑑賞体験だった。お薦めします。:-)
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話は変わりますが、たとえば『千と千尋の神隠し』で油屋の廊下を走るセンの足音は、いったい誰がつけているんだろう。
そんなことを考えながら観る人はあまりいないと思うけど、実写の同録とちがって、役者さんが走れば音も録れるわけじゃない。
アニメのすごいところは、人がつくったもの、ないし人がイメージしなかったものは、何一つ映画の中にないという事実なんですよね。
ポニョのエンドロールに、「整音:井上秀司」という名前が出てきます。東京テレビセンターで、40年以上テレビや映画の音づくりを担当するベテラン。宮崎駿さんの映画の音は、すべてこの人が手がけている。
以前、彼にインタビューしたことがあります。
井上「映画の中の音というと、いわゆる効果音づくりをイメージする人が多いと思いますが、そうではないんです。整音はその全体を、さらに、”音から見た一本の映画”としてまとめ上げてゆく作業。
『千と千尋の神隠し』の油屋のシーンでは、100種類以上の音を、6chの空間に配しました。
たとえば、廊下を歩く人の足音は、建物の新しさや状態を表現している。階段をのぼる場面では、その足音を若干きしませてみたり。そんな細部の積み重ねで、映画の印象世界をつくり込んでゆくんです。」
(C) STUDIO GHIBLI
『天空の城・ラピュタ』で、凧がラピュタの雲の中へ突入してゆくシーン。父親の幻影を見たパズーが「お父さん!」と叫ぶ。でも、あの部分だけ音が付いていない。音が一瞬切れる方がより印象に残るという井上さんの判断で、すでにつけていた音をあとから削ったとか。
宮崎監督のコンテのほかにも、井上さんをはじめ無数の仕事の積み重ねがあって、ようやく一本の映画が出来ていることを思うと泣けてくる。
少しでもいいものにしよう、という想いが細部に入って手が入って、ああいう映画が形になっている。
井上「この仕事(映画の音づくり)をしている人は、世界中どのスタジオでも、ある程度年齢の高い人です。生活経験の厚みがものをいうからでしょう。
『ライトスタッフ』や『スターウォーズ』『アポロ13号』のサウンドデザインを手がけている、ルーカスフィルムのランディ・トムさんも、50才くらいです。
自分は仕事以外ではほとんど映画を観ません。観ても、つくり手の仕事の方に目がいってしまうので、あまり楽しめない(笑)。
でも自然の音は、どこへ行っても気に掛けています。たとえば雷が聴こえてきたら、その音のどこが雷らしさなんだろうって、ずっと聴き入ってしまうんですね。」
『崖の上のポニョ』については、主人公のあんな我が儘ぶりをゆるしていいの?という声もあるみたいですね。「われがまま」であるってなんだろう。
宮崎駿さんの生命賛歌。私たちは楽しみました。
夏休み中の映画館(とくに週末がねらい目?)で、子どもたちの音も井上さんの音も、両方どうぞ。:-)
LW
by 2008/8/26