今日の机上から・12/17

月曜日、表参道のカフェanoというチェコ料理のお店に、高嶺エヴァという友人のコンサートを聴きに行った。

エヴァさんはチェコの人。でも日本は長く、ずっとヨーガンレールのプレスのお仕事をなさっていた。僕は10年ほど前にコンフォルト誌での取材でお世話になって、以後しばらくご無沙汰していたが、二年ほど前にヨーガンレールの葉書に短文を書く機会があり、あらためてお会いするようになった。

下の写真は、コンサートで配られたエヴァさんの栞。

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20歳の頃シベリア鉄道に揺られて日本へ。日本からの留学という形でソルボンヌ大学へ行き、仏文を学び、日本に戻ってからは語学講師や翻訳・通訳の仕事を手がけ、同時にヨーガンレールのプレスの仕事に就いた…という経歴が書かれていた。
母国語であるチェコ語のほか、英語、フランス語、ロシア語、日本語を自由につかえる。

一年半ほど前に清澄白河のヨーガンレールで打合せを終えて、その別れ際に「西村さん、実はわたし、歌を歌うんです」と嬉しそうにつぶやいた。ずっと歌ってきて、小さな頃はチェコフィルハーモニー少年少女合唱団の一員でもあり、今も、実はずっと歌っているのだという。
「時々ライブもしているんです」と恥ずかしそうに言うのだけど、なぜかライブスケジュールは教えてくれない。聴きたいなあと伝えていたら、一年ほど前に連絡があった。ヨーガンレールの仕事を辞めて、歌を歌って生きてゆくことにしたという。

外国の方の年齢はわからないものだけど、おそらく40代後半か50代前半だと思う。今から歌ですか! それで生きてゆくことにしたって、すごいなあ! と思って、以来ますます聴いてみたかったエヴァさんの歌声を、僕らは今週、初めて耳にすることができたんです。

そして、とてもいい12月の月曜日を過ごせました。

エヴァさんはアンコールを含み十数曲の短い歌を、マイク無しで、ピアノの伴奏だけ付いてもらって、楽しそうに歌っていた。聴いている人たちもみな楽な感じで、そして嬉しそうだった。
一曲目は「クローバー」というタイトルで、歌詞は彼女のお父さん。

 探しつづけていれば、必ず見つかる。
 草の中に生えている幸せを。
 だから百回も探して見つからずにいる君も、
 悲しむことはない。
 四つの葉に包まれた幸せは
 分かれ道の向こうで見つかることが多い。
 見つかった時に毎日読む本にはさんで、
 大切なものにする。

これをチェコ語で歌っていた。
毎月一度、カフェanoで歌っていて、次は1/11だそう。僕らは奈良のフォーラムと重なって聴きにゆけないのだけど、また行こうと思います。

この夏に書き終えて、秋に書店に並んだ自分をいかして生きるは、僕の友人や大切な人や、同じ時代を生きている人たちに、「みんなはどう生きてゆくの?」ときいてみたい。そんな気持ちで書いた一冊だったけれど、エヴァさんはそれを歌って返してくれている。
 

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同じ頃一冊のリトルプレスが届いた。「Bon Appetit」という冊子。五十嵐友美さん・長井史枝さんの二人がつくっている。表紙には「つくる人の姿を伝える本」とある。

9月に参加したストッキストという展示会で彼女たちと初めて出会い、秋に取材を受けて、それが形になったというわけ。
この取材は僕(西村佳哲)にとって嬉しいものだった。なぜかというと僕でなく、西村たりほにスポットをあてた取材となったから。

人前で話す機会が多く、本も書いていることから、僕が矢面に立つことが多いけど、リビングワールドは西村佳哲・たりほの二名を軸にした仕事で、なかでもたりほのセンスに由るところが大きい。
彼女は僕のデザインの先生の一人だ。デザイン観や、ものごとの捉え方・考え方、吟味する感覚や、自分を大切にするスタンス。この10年間これらを教えてくれたのは他でもないたりほであって、恩師筋にあたる(なんらかの政治的圧力によって書いているわけではない)。たとえば僕が彼女から学んだことの一つは、デザインしないというデザインの姿勢です。

もし彼女のインタビューが載った雑誌が出たら、僕は本屋へ走るだろう。その一つが形になったわけです。Bon Apetit・7号として。有り難い。そして「ええこと言うなー>たりほ」と感心している。
五十嵐さん、長井さん、ありがとうございました。全国のこんなお店で入手できるみたい。どうぞ、ご覧になってください。
 

他にどんなものが、今日、机の上にあるかというと…。

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北海道・浦河で、精神障害者の方々と暮らす自助ハウス「べてるの家」を手がけてきたソーシャルワーカー・向谷地生良さんの本。
べてるのことは今年の春にはじめて知り、強い衝撃を受け、6月には北海道へ行った。わたしたちの社会を照らすこんなにクリアーな光が、優駿の日高・浦河から放たれているとは思いもよらなかった。

読み返しているところです。向谷地さんについて詳しくは、1月の奈良のフォーラムで。(もうじき定員〆切)

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その奈良の、第一回の本ができました。来週22日頃、書店に並ぶ予定。
自分の仕事を考える3日間・1
今回はインタビューを中心にした一冊です。僕にとってインタビューは風景画のようなもので、書きながら楽しいし、一切しんどさがない。その風景に自分も感動しているので、ひとにも迷わず薦めることができる。
 

by LW 2009/12/17

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