お店は旅の軒先のような
ここ何ヶ月かアンジェ/ANGERSのトップページに、僕らの砂時計の姿がある(上の写真)。お店でも大切に扱ってくださっていて、新宿店で6/16まで開かれている「旅する時間」というフェアでは、砂時計に加えサウンドバムのCDも並んでいる。
新宿店の一角(2010年5月)
アンジェの本店は京都・河原町にある。本の取り扱いにかなり腰が入っているのは、母体がふたば書房という書店さんだからでもある。書棚には「自分の仕事をつくる」も並んでいて恐縮してしまうが、むろん嬉しい。
物欲が減少方向にある自分だけど、ここに行くと、ついなにか買ってしまう(いや、いいんですけど)。
そのわけは良いものが揃っているから、だけではなくて、「これ素敵ですよね!」というお店の人たちの気持ちが伝わってくるからなんじゃないかと思う。
もちろん「売りたい」気持ちも大いにあるだろうし、売れないと必要以上に気持ちが沈んでしまうのが、販売の現場で働く人たちのつらいところだと思うのだけど、アンジェの人たちは、お客さんがレジに品物を運んできてお買上になる時、売れた嬉しさもさることながら、それを「いい!」と思う気持ちや素敵に感じる感覚を共有できた嬉しさの方が、少し勝つんじゃないか。
その度合いはスタッフによって多少違うかもしれないけど、彼らの店先にいるとそんなことを感じるわけです。もちろんアンジェに限った話ではありませんが。
で、そういうお店は、足を踏み入れると次第に嬉しい気分になってくるし、温かい。
良い品物が沢山並んでいるけど寒いというか、心がわいてこない店もあるので、この温度には敏感でいたい。
一ヶ月前、たまたま入った京都のミナ・ペルフォネンで同じものを感じた。昨晩は人に薦められて行った、高松の藤澤眼鏡店という小さなメガネ屋さんでも。
こうしたお店に並んでいるモノは、商品というより花というか。あるいは小人というか。
なにが言いたいんだ? ただのモノでなく、小さいながらも生きている人格のようなものとしてあって。店内を歩く僕をみんなしてジッと見ていて、目が合うと「はい!」と嬉しそうに身を乗り出してきたり。まあ、そんな感じがする。
そういう店での買い物は「消費」ではまったくなくて。賛成の表明。その品物が存在することや、それをこうして集め売ってくれていることに対する「いいねー」という返しであり、なにか買って帰らないわけにはいかない…という生体反応だと思うのだけど、今こうして書きながら思ったのは、財布を開く前にお店の人ともっとお話をした方が筋だし、楽しそうだ。
すぐに財布を開くのは、言い方悪いけどある意味楽ちんなコミュニケーションですよね。エフスタイルのふたりが先日、販売店さんとの取り引きについて「簡単に始まるものは、終わるのも簡単」と話していたけど、それと同じだな。買い物も取り引きも「関係」という目で見れば、もっと大事にできる。
話しを少し戻します。僕ら(リビングワールド)は最近あまり新しいものづくりをしていない。近日あらためて書こうと思うけど、ここ1年ほどは、いくつかの会社や組織の活動支援のようなことをしていたり、本を書いたり、ワークショップをひらいたりしている。
ものづくりに飽きたわけではないけど、いいものは既にたくさんあるので、そこに新しく「もうひとつ加えたい!」という気持ち、「これ足りないじゃない!」という衝動が、ものづくりの過程で感じざるを得ないいろいろな矛盾を突き抜けない。(突き抜けるとつくる)
30代前半の頃まで僕には、「デザインの仕事をやってゆく以上、常に無数のプロジェクトを手がけて、新しい成果を次々に発表していないといけないんだよな…」という強迫観念があった。リビングワールドを始めてからもしばらくはその余韻が残っていたのだけど、たりほと一緒に暮らし・働いている間に、そのあたりの感覚が大きく変わったこの十数年である。
これまでにつくってきたものは、他にないし、いま生きているこの世界に「加えてみたい」と思えるものなので、余分が出ないようにつくり続け、それと出会う人に届けつづけることをしっかりやっていきたいと思う、今日この頃です。
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先ほど「小さいながらも生きている人格のようなもの」と書いたけど、モノって本当にそんな感じがある。
書いた本にしても、砂時計にしても銀河系にしても、物品ではないけどこのウェブサイトも。小さな孫悟空のようにあちこちへ散って、いろんな人と出会い、お話を交わし、時間を過ごしている。
取扱店はその旅の軒先のような感じだ。お店で雨露をしのぎながら誰かとの出会いを待っている自分たちの品物に再会すると、なんとも言えない気持ちになる。
大阪の古本屋「ON THE BOOKS」にて(2009年10月頃)
東急ハンズ名古屋店「男の書斎」にて(2010年2月頃)
六本木「IDEE SHOP TOKYO MIDTOWN」にて(2009年12月頃)
新宿「アンジェ・旅する時間」より(2010年5月下旬)
砂時計を寝かしたディスプレイに感心。:-)
by 2010/6/5