世界の音を聴こう!・制作日誌

音の旅・サウンドバムのはじまりから、日本科学未来館での展覧会(2002)が終わった頃までの日誌です。

1996~1999/09(まえがき)
サウンドデザイナーの川崎義博さんとの屋久島での出会いから、フィジー諸島への旅(’99)にいたるサウンドバムの話は、同プロジェクトのサウンドバムとは?を参照。
サウンドバムは、「どこでもミュージアムになる」「世界をいきいきと感じる」といった点でも、LWとの関係性が深いプロジェクト。サイトのデザインは清水徹さん。

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2002/1
アートプロデュース会社・ナンジョウアソシエイツの西山さんから、日本科学未来館(以下未来館)一階の吹抜け空間を活用した展覧会の相談をうける。
未来館側の担当者は内田まほろさん。メディアアート関連のキュレーターとして活躍する友人。ジオ・コスモスを見上げる空間が生きていないという彼女たちの意見に同感。「アース・ラウンジ」というネーミングのアイデアをだす。    

2002/1/30
雨風の悪天候の中、小林弘樹(Sound Explorer)がロサンゼルズスから西表島にむかい、ライブマイクのシステムを調整。未来館での展覧会を想定し、ステレオ化などのバージョンアップがほどこされる。
彼にとって西表はもはや第二の郷里。いまでは、集落の会議にまで出席しているようだ。

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写真は、木にとりつけられたマイク。下はアンプなどの機材類。1997年にSound Explorerで川崎さんが設置したものにメンテナンスを加え、今もオンラインで音を届けてくれている。
 
2002/3
ミュゼグラムのデザインで、未来館・吹き抜け空間の什器が制作される。
複数アーティストの合同展というナンジョウアソシエイツ案に修正が入り、サウンドバムによる単独展示が起案される。今後は内田さんと直で仕事を進めることになった。
西表島のライブ音回線について、NTT西日本沖縄支店による回線提供継続が決まる。ありがたい。
吹き抜けに、西表島の鳥やセミの声が鳴り響くだろう。
   

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2002/5
サウンドバムの川崎義博・岡田晴夫と、未来館の現場確認。
ミュージアムにおける音の展示は、ライブラリー型のものが多い。たとえば、内容説明の横のボタンを押すと音が聴こえてくるもの。そんなのはつまらない。

ラピッド・スケッチをかさねていると、川崎さんからスピーカーに高低差をつけるアイデア。良い良い。ちょっとした関わり方や身体の使い方のちがいで、経験の質は変わる。
 
2002/7/上旬
未来館の内田さんが、同僚の三石さんとディスカッション。アース・ラウンジのシリーズコンセプトが立てられる。
サウンドバムの各スタッフが、自前の音源を整理。
南半球の音が足りない。ブラジルバムの予定はあるけど、年末で間に合わないし。どうしよう….。    

2002/7/24
未来館内で正式にオーソライズされ、10月の開催が決定。同じ頃に開催するナイトイベントについて、川崎さんとSt.GIGAフォーマットのチルアウトを夢想する。
人のつくる音楽と、自然が鳴らす音を等しくあつかっていた同局のコンセプトでつくる、一晩のクラブイベント。元DJのみんなにも再結集してもらおう!という考え。

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オンエアー当時、St.GIGAが配布していた番組表。パーソナリティや番組名はなく、日々の干潮表が..

St.GIGAは’91年、WOWOWと同時にはじまった音の衛星放送。時計時間ではなく、潮の干満表をベースに自然のうねりを伝えようとする、世界でも画期的な放送局だった。いまだに例をみない。
同放送局は多くの人に感銘をあたえ共感を呼んだが、課金型放送のハードルは厳しく、3年目から経済的に崩壊。ちょうどこの頃から、内容的にも大きく変わり始めてしまった。  

2002/8/上旬
限られた予算で、巡回展示も可能なデザインを考えなければならない。世界地図上に各地の音を配置する方針は決まるが、各スピーカーユニットの形状がなかなか決まらない。

別件で事務所に来ていた建築家の長岡勉、渋谷城太郎、内田まほろから、円筒のクリアー・アクリルを使ってはどうかというアイデアをもらう。
しかしアクリルでは予算が合わないし、素材的にも気持ち良く耳をよせる気になれない。LWの藤本から「紙管」をつかうアイデア。素材感も良く、エコバリューも高い。    

2002/8/4
ロスの小林君、プライベートで急遽パラグアイへ。南半球の音が、ひとつ追加されるかも!

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パラグアイの牛たち(Photo Hiroki Kobayashi)

トランクという会社の矢崎さんから、三軒茶屋の世田谷くりっく・生活工房で開催される展覧会への参加打診がとどく。が、時期は未来館と同じく10月。どう考えても無理。….未来館展示の別バージョンなら、なんとか出来るかも。  

2002/8/13
未来館との正式な契約はまだこれから。しかし、スタディは進めておく必要がある。
どんな世界地図をベースにするか。バックミンスター・フラーのダイマクションマップが候補にあがる。「Your Private Sky」日本語版のデザインを手がけた永原康史さんが、先方連絡先など相談にのってくれる。
世田谷・くりっくの展示用に→TRY-WALLを発注。円形カットも可能、かつリーズナブルで気持ちのよい素材。    

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2002/8/21
最終的に、極座標型の世界地図を選択。会場の丸いカーペットと極座標の円形をからめて、会場で配布するワークシート用のイメージも固まる。 おそらく想像通りの空間になるだろう。でも、どんな音が響く空間になるのかが、まだまるでわからない。
サウンドバムの岡田さんが、使用機材の在庫確保にむけて動きはじめる。  

2002/8/22,24
LWの二人は、世田谷くりっく・生活工房のワークショップ「ちいさな木をつくろう」。砧公園での感察(感じて察する)の一日と、生活工房での工作で2日間。とても気持ちのよい天気が続き、参加者のみなさんからも溢れるパワーをたくさんいただきました。

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2002/8/27
展覧会にむけて、過去のサウンドバム音源を一枚のCDにまとめ、それをLWで商品化することに。
岡田さんや川崎さんによるサウンド編集作業を含み、CDケースやブックレット、チラシやワークシートなど、製作物は増える一方。
先に触れた世田谷生活工房の展示も決まる。9月の生活を思い浮かべては、口数が少なくなるLW。    

2002/8/28
オーディオテクニカが、オーディオケーブルの協賛提供を引き受けてくれる。お茶の水・湯島のテクニカハウスの帰り、東京医科歯科大の生協で、世田谷での展示用の聴診器を購入。    

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2002/8/30
会場配布用のワークシートのデザイン検討を兼ね、藤本は未来館へ。吹き抜け空間では、ネイチャーネットワークのオルカ&ウミガメライブ講座が開催されていた。会場を担当をしていたThink The Earthの佐味さんはその昔、サウンドエクスプローラの重要なスタッフの一人でした。

CDのプラケースがどうも好きになれないLW。紙ケース・サンプルを各種取り寄せるが、どれもいまひとつ。アジールデザインの円城寺さんが、坂本龍一のCDにも使われているものを教えてくれる。スウェーデン製でパルプ100%の贅沢品だが、パッと見、紙らしくない不思議な質感がいい感じ! メーカーへ連絡し少ない在庫をおさえてもらう。  

2002/9上旬
岡田さんよりマスタリングCDが届く。フィジー諸島のランビイダンスの音に感動し、深夜にステップを踏む藤本。同時進行ですすむ大量の仕事にワーキングハイ気味。
川崎さんは京都の別宅に籠もり、各音源の編集作業中。彼はこの地上に数カ所以上の拠点をもっている。いつ会っても旅の最中にいるような人だ。

CDプレス、ワークシート、DM、CDケース、ブックレットの入稿が嵐のようにすぎる。    

2002/9/14
川崎さん岡田さんはインドネシア・バムに出発。    

2002/9/21
いよいよ、すべての作業がマルチタスクで本格化。
ミュージアムショップでの販売にむけて、お薦めの音関連の本・数冊の情報を伝える。    

2002/9/下旬
紙管スピーカー表面の地図のデザインワークが佳境に。
藤本が水彩で地図を描き、それに地名や線画のイラストを加えてゆく。

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St.GIGAテーマのライブイベントは、東京デザイナーズブロックのIDEE/SPUTNIK DOMEで、同期開催されることになる。
川崎さんは、PA設計のミーティングに参加。サウンドデザインについてはまだ経験値の低いIDEEのスタッフを助ける。  

2002/9/30~10/1
オープンにむけて、未来館の現場設営開始。
すべてのケーブルと機器の接続がおわり、それまで静かでフラットだった吹き抜け空間に、世界各地の音が一斉に立ち上がった。不思議な音のアンサンブル。あちらで子どもが走り、こちらでクジラが鳴き、遠くで森にスコールが訪れる。とてもいい!
検証の方法も時間もないまま進めてきたため若干の不安があったが、一気に解放される。

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川崎さんは、翌日も丸一日をかけて音のバランス調整。館内にはほかの音も多く、また来館者たちが立てる音もある。各スピーカーから流れる音も一定ではなく、それぞれ様々な音種をふくんでいるため、バランシングは難しい。

川崎さんと、アシストで来てくれた横内さんによるこの精神的な作業は、夜の三時まで淡々とつづいた。付き添ってくれた未来館のスタッフに感謝。  

2002/10/2~
ついに、展覧会はじまる! 未来館のボランティアスタッフが、毎日当番制で会場に付いてくれる。彼らの作業日誌には、以下のようなコメントが。
「展示の中央に立つと迫力がありました」
「(見学者が)また戻ってくるとうれしいです」
「森の音のソファにずーっと居座る人(寝てしまう人)が多くて困ります…」などなど。

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Photo by Midori Nomura(MeSci)

10/4にオープニング・レセプションを開催。約100人が集まる。ケータリングで、ルヴァンの甲田さんと製造のあいちゃんたちが駆けつけてくれる。パンが美味しく、集まった人はみな満足顔。
昼間の時間帯とは条件が異なることもあり、レセプションに来てくれた人たちの幾人かは、すこし寂しい印象を抱いたかも。味わい深いものは薄味でよいのだけど、レセプションのような場ではガツンとくるショックへの期待感が高い。それにもこたえる柔軟な演出は今後の課題だなと思いつつ、ようやく一息をつく。

2002/10/5
未来館・レクチャールームで、サウンドエデュケーション・セミナーを開催。 慶応幼稚舎でサウンドエクスプローラ部を担任する鈴木先生と、川崎、西村の三名で、教育分野における音を聴くことの価値について話し合う。

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「リスニング」というカリキュラムを、すべての小学校に導入すべきと語った。本気でそう思う。

私たちの社会は、生産的であることに価値を置きすぎている。深く聴くことは生産的な行為ではないかもしれないが、生産的でなくても価値のあることは沢山ある。が、そうした時間の価値は低くみられがちだ。
夕焼けを眺める時間は、次の労働のための休み時間では決してなく、それ自体で満ち足りたかけがえのない時間だ。音に耳をかたむける時間も同じ。  

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2002/10/6
未来館側がようやく一息ついたと思ったら….、今度は10日からはじまる世田谷用の展示物を、四日間で一気に制作。

モノづくりにトライ&エラーは欠かせないし、試行錯誤によってのみ完成度は上がる、なんて口酸っぱく大学で学生達に話しているにもかかわらず、その轍をしっかりと自分で踏む。三日間の完全徹夜作業。  

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2002/10/10
当日に設置がずれ込みつつ、なんとか完成。未来館の展示とはまた違った面白さが形になる。

卓袱台のようなテーブルに描いた世界地図。その上をちいさなスピーカーを聴診器をあてるようにして音をさぐってゆくもの。カードをめくるような楽しさがあり、つくった本人たちがハマってしまう。
同じくハマっている来場者たちの表情がうれしい。仕事に対する評価は、直接的な言葉よりも、それを見つめる表情やあるいはどれくらい触りつづけているかを観る方がいい。

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2002/10/11
東京デザイナーズブロックのメイン会場のひとつ、青山学院大学前の空地に立った白いドームは、アメリカ西海岸のイベント「バーニングマン」のスタッフが運んできたもの。中に入ると、音が不思議な響き方をする。

他の日は夜9時過ぎからはじまるライブイベントだが、この日は夕方にスタート。5時過ぎのサンセットから、東京湾が干潮をむかえる夜中2時過ぎまで、St.GIGAのフォーマットで潮と太陽の動きに寄り添いながら音をつなげる。
St.GIGAで回していた石井亮、川崎 寛や川崎義博のほか、音楽家の一ノ瀬響が参加。映像は嶋田力を中心に、タカオカシンヤとOrg:の春日泰宣、OHPを操るOVERHEADSの二人組み。

寒さに凍えつつ、のべ400人ほどの人たちと心地よい時間を過ごす(しかし寒かった!)。遊びにきてくれたみなさん、ありがとう。こんどは夏の暖かい頃に、海辺で朝日が昇るまでやってみたい。ほどよく大きめの音量で。

2002/10/18
慶応幼稚舎の二年生の生徒たちが、未来館へ見学に来る。一クラスを二組にわけ、会場をつかって先生が簡単なワークショップを開催。
みなそれぞれが、どこの場所のどんな音が好きかメモしています。

サウンドバムのCD、ショップでの売れ行きがよい様子。店長さんがうれしそう。

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2002/10/21
あっという間の三週間が過ぎ、未来館の展覧会は無事終了。
評判はおおむね良かったよう。 会場ボランティアの方々の日誌を読み返すと、「小学生は音を聴いて、色々と想像して感想を話してくれるので良かったです」「外国からの来館者の中で、自分の故郷の音に触れて大変よろこんでいらっしゃる方が時々おられ、サウンドバムの一面に触れたような気がします」「ありがとう、と言ってくださるお客さんがいて、嬉しくなります」などなど。
館長であり宇宙飛行士でもある毛利衛さんも、とても気に入ってくれた。

撤収は数時間で終了。 会期中、ロスの自宅から西表島のライブフィードの監視をつづけてくれた小林さんにお礼のメールを打ち、帰宅。    

2003/1/21
展覧会が終了して2ヶ月が経過。
同展覧会は現在、次年度以降の巡回展示を調整中。興味のあるミュージアムや文化施設関係の方は、日本科学未来館、またはリビングワールドまでご連絡ください。

リビングワールドは、中断していた「風灯 Ver.1.0」の制作を再開。また、未来館で3/19からはじまる別の展覧会「時間旅行展」の制作作業に突入。
 

by 2003/1/21