
わたしのはたらき
奈良の図書館で三年間開催してきたフォーラムの、最後の本が刷り上がりました。12/1頃から書店に並びます。
タイトルは『わたしのはたらき』。仕事や職能以前の、極端な話、その人がそこに〝いる〟だけで発生する「作用」のようなチカラ、働きに、最近の僕は感じるところがあるようです。
本をめくってみます。

最初は弘前・森のイスキアの佐藤初女さん。「おにぎりの!」という人が多いけど、おにぎりというか料理を丁寧につくり、それをともに食べることを通じて、ひとの心と身体にかかわってきた方です。
でもいちばん自分に食べさせているのは、他でもない自分なんだよな。
初女さんの話しぶりはパンク、というかストレートで、抱いていた印象に少し修正が入る人もいるかも。

広瀬敏通さんは、エコツーリズムや自然学校づくりの世界の人。被災地におけるRQ市民災害救援センターの活動でご存じの方もいるかも。
彼の話は、8月に出版した『いま、地方で生きるということ』(ミシマ社)にも登場しますが、いま若い世代が中山間地域で働いて・生きてゆくことの可能性を、ここではより詳しく、ハッキリした言葉で語ってくれています。

そのまま日本に戻らない人生を送っていたかもしれない彼の、20代後半のインドでの村づくりの話など、聴きながら胸を掴まれる思いでした。
「なにかを求めて動く」ことが生命のかたちだと思うのですが、べ平連、インド、カンボジア、富士山麓…と動いてきた広瀬さんという生命現象はいったいなにを求めているのか。一貫しているのは「自立」です、と彼は答えてくれたけど。
そして、『ゼロ円ハウス』の坂口恭平さん。

ここは「自己実現」という言葉のいぶかしさについて、彼が触れているくだり。
心理学者のマズローが提示したこの概念は、少しはき違えられているかな? と僕も思います。
マズローが述べたのは「ならずには済まない存在になる」こと、それを現実化することであって、個人的な夢や欲望の具現化とは違うと思う。まあ、こんなとこつついてもしょうがないか。
大宅壮一賞を受賞した『逝かない身体』(医学書院)の著者・川口有美子さん。
難病中の難病と言われるALSをお母さまが発症。以後十数年に渡った介護を通じて、感じ、考えてきたことを語ってくれました。
彼女の言葉が僕には、まっすぐに〝仕事〟照らしてくる光のように感じられてならんのです。

次に鈴木昭男さん。
世界に名を馳せるサウンド・アーティストなんですけど、うあ、こんな生き方もあり…かどうかは別にして実際にこんなふうに生きてきた人がいるんだな、とたのしくなった。

弱さやしょうもなさも(昭男さんすみません)、関係を恐れずに生きてゆくなら、一つの力になる。
随筆家の山本ふみこさんは、ご自分の「主婦」という仕事観を楽しく語りおろしてくれました。
そして「成り行きを大事にして生きてゆくには、感性がものをいうと思うんです」と。さすが随筆家!

彼女の話は、痛快です。
さて、この最終回、建築家の中村好文さんにも来てもらうことができました。僕にとってはちょっとした一大事で、語り始めるとつい冗長になりそうだから控えますが、好文さんが話している時に後ろから撮ったこの写真が好きです。

みんな笑っている。:-)
そしてミナ ペルホネンの皆川明さん。『ミナを着て旅に出よう』(DAI‐X出版)で語られていた「100年つづくブランドを」という言葉の含意がいまひとつわからなかったのですが、その想いや考えを、十分に聞かせていただくことができた。なるほど。

こういう気持ちや考え方で動いている、つくり手、経営者が、同じ時代にいることが嬉しい。
最後は伊藤ガビンさん。彼の名前を知らない人には、PSのゲーム「パラッパラッパー」(1996)のつくり手の一人と言うと伝わるでしょうか?

「自分が興味あることなんてくだらない」、だと。あらそう。仕事は基本的に「暇つぶし」だそうです。でもこの言葉、『自分の仕事をつくる』でのインタビュー時にヨーガン・レールさんも口にしていたな。
ちなみに僕の場合、暇つぶしと言い切る感覚はないです。あと何度か生まれ変わるとそんな魂に達するのかな。でも、まるでついていけない言葉ではない。「わかる」感じもある。
ガビンさんには、フォーラムの最後をお願いしたいと思っていたので、それが実現して嬉しい限り。
そんなわけで、『自分の仕事を考える3日間 Ⅰ』『みんな、どんなふうに働いて生きてゆくの?』につづく、シリーズ・三冊目の最終巻。『わたしのはたらき』。
フォーラムも本も。「自分の仕事を考える3日間」は自分にとって一つのエポックになりました。この機会がなかったら、「インタビューの教室」というワークショップを始めることもなかったと思う。
三年間をご一緒した、1,000名を超える参加者のみなさん。各年のゲストのみなさん。本当にありがとうございました。
by LW 2011/11/24