小豆島で仕事について考える
うどんの麺が届いた。ご家族で麺づくりにはげんでいる、小豆島の平井製麺さんに注文していたもの。
今年の2月のある日、小豆島の生産者さんを訪ねて回りました。初めてだけど、とてもいいところだった。素直に感激したので、少し紹介させてください。
百年以上、代々使われてきた杉樽。「落ちないように気をつけて。醤油はコップ一杯飲むと死にますから(塩分が濃い)」。樽には大事な菌が住んでいるので、洗わない。
島の東南部に、醤油蔵が並ぶ地域があります。「美味しんぼ」にも紹介されたヤマヒサ醤油を始め、大手のマルキン忠勇など。
その一角に、ヤマロク醤油という小さな醤油蔵がある。
五代目・山本康夫さん。奥さんは島のお医者さんで、蔵の面倒は基本的に彼が一人でみている。
「生産量は今の二割増が限界ですね。直販率は約6割で、飲食店を入れると7割。残りが卸しです。高級スーパーやDean & Delucaにも置いてもらってます。経営的に厳しい時は直販率を上げます。方法? 企業秘密ですから言えません。(笑)」
あぶないという理由で、小さな頃は蔵の中に入れてもらえなかった。小学校を卒業する頃まで、自分の家が何をつくっているのか知らなかったらしい。
「大学を出て、まずは小豆島の佃煮メーカーに就職しました。勤務地は大阪や東京。営業で働いていたのですが、ものはいいのに、買いたたかれる。
売りに行って値切られるより、買いに来てもらえるものをつくろう。そう思うようになって、30才直前、親がやっていた醤油づくりを継ぐことに決めたんです。」
近所の土壁。石積み塀マニアです。
つづいて、近所の平井製麺さんへ。海岸から少し上がったところにある、陽当たりのいい家族経営の製麺所。
手延べ素麺づくり。麺をのばして天日で乾燥させる前の「箸分け」という作業。事前に申し込んでおくと、体験させてもらえる。
平井さんは自然が好き、家族でできる仕事が理想で、小豆島でなにかできないか…と探していたところ、製麺組合が新規加入者を募集中。これに応募して、以来、30年近く奥さんと麺をつくっている。
無添加・自然素材の手延べ麺で、とても美味しい。
平井康廣さん。「最近やっとそうめんに作らされている感じがなくなってきた。思い通りの麺ができるようになってきたんです」。
ただその後組合は、天日干しや家族単位での作業といった、平井さんが気に入っていた部分について方針変更を加えてきた。
生産量を上げたかったのだろうが、これを機に平井さん家族は組合を離脱する。道具も素材も、なにもかもぜんぶ自分たちで…というのは本当に大変だったはず。
「販路もなくなるわけです。最初は百貨店からスーパーから、いろいろ頭を下げて回りました。でも何か違うな…と思った。有名な自然食品店に行きますよね。素材は?製法は?と、細かく問いただされる。でも実際に売り場に並んでいるものを見ていると、こだわりを徹底させているとは思えないんですね。
何年か全国を回った後、直販でいこうと頭を切り換えました。そして製麺所の庭先でイートインを始めた。今は2/3を、全国の個人のお客さんにお届けしています。」
麺を干す木製の台の一部。棒にかかる麺の端の部分は「ばち麺」という名前で安く販売されている(パンの耳のような感じ)。
「やはり、納得がいくか・いかないか。自己満足というより自己納得。自分の人生はそうしたい。納得できる人生が一番だと思うんです。気に入った商品をつくって、気に入って食べてもらいたい」。
茹で上がったそう麺をいただきながら、まったくその通り!と強く共感。
「国産の小麦にこだわる人も多いけど、有機認定の品質管理は外国産の方が厳しいし、実際オーストラリアの小麦の方が美味しかったりもします」とも話していた。自分の納得感を手がかりに、仕事を重ねている様子。
そしてもう一カ所、最後に井上誠耕園というオリーブ農園を訪ねました。
山の南面に広がるオリーブ畑。二代で農業をやっており、親父さんはミカンを、息子さんはオリーブを手がけている。
小豆島は国産オリーブの発祥の地。明治41年、農商務省が全国三カ所に苗を植えて、小豆島のオリーブだけが実を結んだ。
「瀬戸内海の気候がオリーブに向いていたというのもあると思うけど、僕が聞いた話でもっともだなと思うのは、他の二カ所以上に苗に愛情をかけた人がいたんだという話です。はい」と、誠耕園・園主の井上智博さん。
井上智博さん。「親父はミカン馬鹿。ちょっとした隙を見つけて、オリーブ園にミカンを植えてしまう。毎日が、はい、戦いです」(笑)。
「自分も若いうちは、しばらく島を出ていたんです。神戸の市場で働いていた。でもだんだん島が懐かしくなってきて、ある夏に帰省したら、同級生が本当に楽しそうに祭りではじけていてね。それでスイッチが入って」。
「うちのミカンは美味しいのに、市場には安く買いたたかれていてね。家に、お遍路で立ち寄った人達のリストがあることに気がついて、いかがですか?と連絡をとってみたんです。そうしたらみなさん注文してくれて。また美味しいといって、ご親戚やお友達からも続々と注文をいただいて。これが、直販で農業をやってゆくきっかけになったんです」。
たりほさんにお土産に買って帰った、緑果搾りのエキストラバージン・オリーブオイル。「ここに嫁に行きたい」と言わせた味。行くな!
数年前リビングワールドを始めた頃、デザイナーは企業に勤めたり、あるいは企業から仕事をもらって生きるのがあたり前になっているけど、自分たちのモノづくりをして生きてゆく選択肢もあるんだということを示したいと思っていた。
ドラフトの宮田さんは、どんなことも時間をかけて続けていれば育ってゆくから、早く始めることが何より大事。自分はそういうことを林業から学んだ、と話していたが、僕らの夢も毎日少しづつ育っている感じだ。木も仕事も一緒なんだと考えると嬉しい。
平井さんも語っていた通り、自分たちが気に入るものをつくり、それを気に入ってくれる人と共有したい。小豆島に行って、思わぬところで勇気づけられた。
あと、美味しいお取り寄せ先に出会いました。:-)
この素敵な厳選ロケーションを連れ回してくれたのは、小豆島の観光協会から独立した、ドリームアイランドの立花律子さん。
小豆島へ行く機会があったら、ぜひ彼女にガイドしてもらうといいと思います。
LW
by 2008/4/26