ハンソン島のベッド

写真注:島へ向かう途中の森で。フカフカの苔の森を一度裸足で歩いてみたかったのだけど、苔に申し訳なく、しばらくそのまま立っていました。
毎年夏になると、サウンドバムはハンソン島へ旅に出る。オルカバムと呼ばれるこの旅は、今年も8/23から31日に開催される予定です。

以下、音も聴きながらどうぞ…。

カナダ、ハンソン島(6:58)/Traveling with Soundsより

 
LWの西村佳哲(今これを書いている私)は、その第一回目にスタッフとして参加。
当時(2000年)の僕は数年間インターネット関連の仕事がつづき、これ以上パソコンの画面を見ていられない!という気持ちからサウンドバムを企画したふしもあって、スタッフと言いながらも、旅の間はほぼ参加者モードでした。
ハンソン島は、南北に長いバンクーバー島と北アメリカ大陸の間のジョンストン海峡に浮かぶ、小さな島です。
ポール・スポング博士と奥さんとボランティア・スタッフ数名が、島の北東部のラボで暮らしながら、夏の間、海峡を訪れるオルカ(シャチ)のポッド(家族単位の群れ)を観察調査している。
島から博士がむかえに来る前の日、対岸の小さな港町で、オルカウォッチの観光船に乗りました。

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こういうオルカウオッチ船が何艘か出ている。水中マイクで聞こえる鳴き声で位置を把握し、互いに連絡をとりあいながら、オルカの近くへ向かう。

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目撃! 手前の黄色いパーカーは、第一回オルカバムに参加した建築家の松野勉さん(ライフ&シェルター)。左手に小さなマイクを持っている。彼の旅日記は圧巻。

翌日、博士の小さなジェラルミンの船に乗り込んで島の裏側にまわると、オルカラボが見えてきました。

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客人をむかえて暖炉に火が入っている家。右はゲストハウス、左がラボ。奥に博士ご夫妻の家。森の中にボランティア達のテントエリアがある。

 
このラボでの滞在は、本当に素敵だった。
月夜の海峡を渡ってゆくオルカ達のブロウ(潮吹き)音や、森の奥からこちらを呼んでいるようなフクロウの鳴き声。朝晩の霧でしっとりと濡れている深い森。
オルカを待ちながら、なにもせずに過ごす空っぽの時間。情報が少ないことの豊かさを味わう毎日。
でも、なんといっても忘れられないのは、スポング博士とその奥さん・ヘレナの、心づくしのもてなしです。
ゲストハウス2階の快適なベッドルームは他の参加者にゆずって、僕は博士たちがテラスにしつらえたテントのベッドルームへ。

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見てよ、マットレスの間にはラグをひいて、枕元には花をいけてくれている。こんなに贅沢な空間ない!と思った。テント泊は外の音もよく聞こえるので、朝の目覚めが気持ちいい。

木のボードを打つ「カン!カン!」という音が聞こえると、みんないそいそと博士の家のリビングへ向かう。晩ご飯はヘレナさんの手料理です。

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料理はすべてヘレナの自家製。ゲスト滞在中はスタッフも一緒にご馳走を食べることが出来るので、みんな大喜びだった。この日のパンは三種類。

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翌日は、オルカを待って、ご飯を食べて、デッキでぼんやりして…。

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椅子を出して書き物中の渡辺保史さん。

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ひきつづきオルカを待って、森を散歩して、晩ご飯を食べて、オルカが海峡を通過して、暖炉のそばで語り合って、静かな波音を聴きながら眠り、真夜中にまたオルカが来て、少し寝て、朝がきて鳥と目を覚まして、のんびりして、朝ご飯を食べて、デッキでぼんやりして…という調子の日々が三日ほどつづく。

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海峡の朝。あたり前だけど、この場所は今この瞬間もあって、その場所の時間を刻んでいるんですよね…。

この旅のシンボルはオルカです。
それはもう堪能した。
でも、無人島にプライベート・ラボを建てて、毎夏オルカを待っている夫婦がいて、研究の合間に少しだけゲストの滞在を受け入れてくれていること。
清潔で手入れの行き届いた空間を整えて、客人を待ってくれていた、彼らの暖かさと清らかさが、僕には何より忘れられない経験として残っています。

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隅々にヘレナの手が入っている、研究所の庭。

博士もヘレナも、もうそれなりの年齢です。彼らがいつまでゲストを受け入れられるかわからない。だから、興味のある人には一刻も早く行ってほしい。
カスタムメイドの旅なのでどうしても割高になってしまうのだけど、惹かれるものがある人はぜひ。僕もいつかもう一度行きたいけど、いつかはないかも。いつ彼らが島を離れてしまうかわからないんです。
もし行くことがあったら、博士とヘレナがどんなふうに暮らしていたか、聞かせてください。:-)
→ワイルドナビのツアーページ(多分しめ切り間近)

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リビングでくつろぐスポング博士。(Photo:上田壮一)

by 2008/7/13