ともに時間をすごす、こと

昨年からラ・ケヤキを借りてイベントやワークショップをひらいているが、そのうちの一つに「○○さんとすごす10時間」というシリーズがある。まだ二回目だけど。


午前10時に集まって、話を交わしながら早めのブランチを食べ、3時頃にお茶とおやつをいただいて、6時頃から晩ご飯を食べて8時頃に解散する。
決まっている枠組みは食のタイミングだけで、用意されているプログラムはとくにない。かといって非構成的エンカウンターグループともまた違う。

食事をつくってくれるのは、南風食堂の三原寛子さんと彼女の料理教室の生徒さん。

台所で。奥がミハ、手前はアベさん。(Photo: Mutsuko Yamamoto, Masako Katsumi)

参加者は12名で、今回のゲストは豊嶋秀樹さん。

ラ・ケヤキの庭で。ブランコの人が彼。(Photo: Keiko Hiroki)

豊嶋さんと初めて会ったのは約10年前だと思う。grafにおける奈良美智さんと彼らのアートプロジェクトも始まる前。「こんな人がいたか!」と嬉しくなった自分をよく覚えている。
以後それほど多く会ってきたわけではないけれど、先月まで書いていた本(『なんのための仕事?』河出書房新社・4/15頃発売)に彼がドーンと登場してきて、実はけっこうな影響を受けていたことが判明した。

先日デザインディレクターの萩原修さんとメールを交わしていたら、彼も以前豊嶋さんの話にだいぶ影響を受けているという。
「プロジェクトに、一人でもやりたくない人がはいっているとうまくいかない」と彼にきかされて、以来そういう人が混ざらないよう注意しながら進めるようになったとか。

この日の大半の時間は集まった人同士が話していたけれど、豊嶋さんもところどこで語り、印象に残った言葉もあったので備忘録を兼ねて書きとめておきたい。

昨年、青山ブックセンターで開催した「ワークショップってなんだろう?大学」で、前の方に座っていた二人の参加者とたまたま住んでいる町が一緒だということがわかって、以来月に一度集まってお茶を飲んでいると話していた。

昨年2月。表参道・ABCで。

その展開ぶりがまた豊嶋さんらしい。三人の集いには追って「自給自足部」という名前が付き、先日は真鶴へ出かけて海水から塩をつくったとか。

あとここ数年かなり本気で山(登山)に取り組んでいて、山スキーに関しても、その日に直したいフォーム等のポイントを書いたメモをポケットにしのばせて滑るくらい本気でやっているという。

で、「そんなに上手くなってどうするの?」といろんな人に言われるけれど、最近「それは上手くなった自分が考えればいいことで、いまはただ上手くなればいいんだ」と思えるようになったとか。
先週も山へ。北海道の羊蹄山に登っていたようで、鼻が赤く焼けていた。

昨年9月の岩木遠足で会った時、彼は檀上で「自分は三割くらいしか一致していない」と漏らした。

岩木遠足・2011。中央は「くるみの木」の石村由起子さん。

「生きていることと、働いていることが?」と尋ねたところ、「そう」と。
やりたくない仕事はなるべくやらずに済む工夫をしていて、さらに面白い仕事をいくつも手がけているように見える豊嶋さんの一致感が、自己認識では三割と聞いて、同じステージの上にいた僕や石村さん、KIKIさんや三原さんは少し驚いた。

あらためて尋ねたところ、こんなふうに話してくれた。

自分は展覧会の企画や空間構成の仕事もすれば、岩木遠足のようなイベントのディレクションもする。山にも真剣に登っていて、かけているエネルギーはどちらもまったく変わらない。むしろ手慣れている分、前者の方がエネルギーを要さないことさえある。

で、それらの中には、稼ぎが付いてくるものもあれば、逆にお金を払っているものもあるのだけど、「自分がやること」という言葉で括ってしまえばどれも同じ一つの袋に入る。
「仕事」と「遊び」とか、「働いている時間」と「オフの時間」といった対立構造で見ていると不一致感が気になってしまっていたのだけど、「やること」という一袋で捉えて、その中にお金になるものがあり、ならないものがあり、むしろ払うものもある…と考えてみると、そこに不一致はない。
残るのは「自分の時間をどう使うか」というだけのことなんですよね、と。

で、いまは出来るだけ直接的に「生きている」ことにかかわることに自分の時間を使っていきたい。
たとえば自分が住む空間を自分でつくるとか。そういう一致に時間を割けるようにしてゆきたいと思っています…といった話を、この日、豊嶋さんは語っていた。

アベさんが3時に出してくれた抹茶ティラミスです。(Photo: Mutsuko Yamamoto)

この10時間シリーズは、『かかわり方のまなび方』という本の冒頭にインタビューを載せた西原由記子さんのナマの存在感を本を読んだ人と分かち合ってみたいと思って始めたものだ。
その本のあとがきに、自分はこんなことを書いている。

──授業やワークショップの主旨や内容よりも、その中で本人が温まったかどうかということの方がその後の人生にとってよほど重要で、それはどんな人とどんな時間を過ごすことが出来たか、どんなかかわり合いを持ちえたかによるところが大きいんじゃないか。──

本当にそう思うな。豊嶋さん、集まった人たち、三原さんたち。ありがとう!
とても贅沢な時間だと感じているので、年に二回くらいがちょうどいい。次は9月頃に開催します。:-)

by LW 2012/3/14