どこで、だれと、なにを?

16-10-03 西村佳哲

20代の頃は「自分はなにをすれば?」ということばかり考えていた気がする。その後「なにを」に加え、「だれと」「どこで」という問いがうまく重なり合って、最近はバランスが取れてきた。複雑になったわけでもない。
自分が「なに」を「する」かという話に泥濁していたあの頃は、本当に大変だった。

一方「どこで?」という問い。自分はどこで暮らし、生きてゆくんだろう? というわからなさも長らくあって、これまた大変だった。
その頃はまだ、重ならない別の求めだったけど、別とはいえ欲求は強く本人は持て余し気味。移住ないし多拠点暮らしの〝どこか〟をいつも探していて、しかもそれを隠していた。恥ずかしくて。
三島さんに嗅ぎあてられて『いま、地方で生きるということ』という本を書いてしまうまでは、誰にも話したことがなかったと思う。

雑誌のページをめくっていると、どこかの森の中や、どこかの山の裾や、どこかの地方都市に暮らしを移した人の素敵な記事に出くわすことがままあり、思わずそこで手が止まる。20代の頃はそんな感じだった。
30代後半になるといい加減ジリジリしてきて、全国各地とは言えないけれど、かなりいろいろな場所を訪ねて回った。
雑誌を眺めていてもしょうがない。時間がすぎてゆくだけ。始めてみないと、始まるものも始まらない。それに実際に行ってみれば大抵のことはなんとかなるという経験上の確信もあって、レンタカーを借りて気になった地域を訪れ、ウェブで見かけたカフェや宿に寄ったりして。

冒頭の写真は、房総半島の先の方の山の中で撮ったものだと思う。なんでその場所に着いたのか憶えていないけど、とても美しいところだった。見入ってしまう景色、素敵な土地はたくさんあった。

で、動き出せばなにか手がかりが得られるはずなのだけど、大した感触が得られない。
さしたる出会いもないまま、時間切れで東京の暮らしに戻り、いそがしく働いて。しばらくするとまたどこかへ車を走らせてみるのだけど、再びなんかカスって帰っているような。

素敵な場所はあり、美味しい店はあり、いい人にも会うのだけど、どうもミートしない旅の連続で(今なら自分にまず「検索」を禁ずると思う)、このまま終わってしまったらどうしよう。
ピンと来るとか来ないとか自由恋愛のようなスタンスで考えていないで、「決めてしまう」ところからすべて始まるんじゃないか? とか考えていたら3月11日の震災が起こり、足元そのものが大きく動いてしまった。今もまだわたしたちはその只中にいるんじゃないかと思う。

気がついてみると自分の暮らしそのものは、2年半前から、神山町という四国の中山間地に軸足を移している。年の半分以上の時間を、鮎喰川という流れの近くですごしている。
最初の1年は東京でしていた仕事をしていて、翌年から「まちのこれから」を模索する仕事にたずさわるようになり、あれよあれよと地域公社の立ち上げにも参画して、いそがしく働いている。元気です。

複数のプロジェクトにかかわっているのだけど、その中の一つに、若い世代を主対象にしたあたらしい集合住宅づくりがある。

『ひとの居場所をつくる』で大切な話をたくさんきかせてくれた田瀬理夫さんや、会社を辞めて間もない頃に出会って以来のつき合いの山田貴宏さん等を設計陣にむかえて、いま、神山のあたらしい集合住宅をつくり出そうとしている。

これはいい住まいというか、場所になると思います。

個人的には20代後半、ゼネコンの広域計画部門での仕事に悩みまくって「なにをしてゆけばいい?」ということばかり考えていた自分自身が、20数年後、種類としては同じ領域の仕事をまるで違うものとしてやれているのが不思議で、少し感慨深い。

最初の話に戻って「どこで」「だれと」「なにを」の3つのどれを大事にして生きてゆくか? と問われたら、いまなら問いそのものを問い直すだろう。
「どれ?」じゃなくて、これらは統合的に扱わないと。

先ほど「いい住まいになると思う」と書いたが、グランドピアノの中に音楽が入っているわけじゃあない(アラン・ケイ)。音楽を奏でる人、そこで暮らす人々がなにより重要な存在で、彼らが「どこで、だれと、なにを」をより有機的に、大切に重ねて生きてゆける場所になるといいな。
そのためにあらかじめ考えておけることを、できるかぎり洩らさず考えておきたい。

あと出会い方ですね。人生を展開させてゆく場所とミートしたい人が、ミートできる接点をつくりたい。
そこで今月後半、こんな2泊3日のプログラムを準備しています。

僕自身にひとに移住をすすめたい気持ちはない。神山を推す気もない。いいところは他にもいっぱいあるし、なにより大事なのは、その土地や人々との相性だもの。でも、一緒に時間をすごせる隣人が増えるのは嬉しい。
「神山で暮らす」ことに関心のある人がいたら、どうぞ。「なんか気になる」として、その予感を吟味できる3日間をつくってみたいと思っています。

神山で暮らす 3 days meeting
設計中の集合住宅のあれこれと、まちの空気がわかる2泊3日

by LW 2016/10/3