牛革がとどく

たりほが革問屋さんに注文していた、牛革が届いた。大きいの大きくないのって、大きい!

いまちょうどつくっている、新作・砂時計のシート用。自分たちでカットするので、問屋さんから丸ごと一枚購入してみた。
一般的な革の「丸ごとサイズ」は背割りといって、背骨沿いに左右に開いた半身分。作業場で広げてみると、まさに牧場の牛を横からみた姿・大きさそのもの。あたり前だ。あの牛なんだから。

東急ハンズやユザワヤで売っている革は、扱いやすいサイズにあらかじめ断裁されている。時には規格サイズにも。それは牛の革というより、牛革という素材なんですよね。
 

むかし、ある大学の里山実習に立ち会った。里山の親父さんがサービス精神を発揮して、「今日は鶏をしめて、ご馳走にしよう」と提案。が、学生はほぼ全員サーッとどこかへ逃げてしまった。残ったのは、好奇心旺盛な女の子が二三人(男子は一人も残らず)。

首を切って、逆さに吊して血を抜いて。しっかり抜けたら熱湯につけて、手で羽根をむしる。
羽根がだいたい取れた頃、何人かの学生がおそるおそる近づいてきた。そして鳥肌状態のニワトリを見て「鶏肉になった」と笑う。…そこは笑うところじゃない気がするんですケド。
 

リビングワールドにとどいた牛革も、背割りに始まり、脱毛して、鞣して、伸ばして、乾燥させて、漉いて…と、無数の工程(今回購入した革をつくっている栃木レザーのページを参照)を経た加工品だ。
それを手にして「まさに牛!」とつぶやいている自分は、肉屋に並んでいる状態になったニワトリを、やっと鶏肉として受け入れていた学生たちと、あまり変わらないかもしれない。
 

モノをつくる仕事をしていると、様々なモノあるいはコトについて、最終形以前の姿に触れる機会があり、そこが面白いと思う。

革の表面には、無数のキズやシワがついていた。漉いてあるとはいえ、厚みも完全に同じではない。
表面をなでながら、ここは首筋から胸のあたり、ここは前足の肩胛骨が出っ張っていたあたり、ここはお腹…と生前の牛を想像すると、この辺にはシワや傷があってあたり前、ここは固いはずだよねと合点がいく。

あらかじめ小さく裁断されたものを買っていたら、少しでも傷のないものを売り場で選んだだろう。でも、革のキズやシワは面白い。いとおしくもある。(西村佳哲)

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by 2006/12/3