
夜道の匂い
Tariho (Living World) 2007-10-10
身近な友人から、ほんの少しだけ知っている人もふくめて、ほぼ毎日、実際に会うという以外のかたちで、さまざまな人の呟きにふれる。
他愛のない一行に、相手の存在がより印象深くなるときがある。ただ安心するときもあれば、どこか心がざわついたり、ただ涙が流れるときもある。これは、かなしいとか、うれしい、とかに分類できない涙。
よくわからないけど、こういう涙もあるんだと去年の秋頃に気がついた。ただ、伸びをしたり、くしゃみをするみたいに、流れる涙もあるんだなと。
そんなところから、湧き起こる自分の中の感情と、それにまつわるアレコレを、たいていは家人と共有したり、またはしなかったり。あるいは、ずいぶん時間が経ってから思い出したように話したりする。そして、たいていネコは部屋の遠くから、いつもじっとそれを聴いているみたい。
Web上の日記などには、コメントをつけたり、メールをしたりすることもあるけど、なにか足りないようで躊躇してしまうこともある。そういうときは、伝えたい気持ちとともに、躊躇する気持ちと、次いつ会って話せるかななんて気持ちと一緒に過ごす。
*
尋ねてみたいことはほんの少しなのだけど、会って話したいな、とこの頃思っていたある友人のことを何となく思い浮かべながら、展示の撤収準備で、最終日・閉店後のクルックにむかう。
そうしたら、クルックの表のカフェで、その友人が一人で本を読んでいた。ガラス戸をコツコツと叩くと表にでてきてくれて、ほんのすこしの立ち話。うれしそうに展示の感想などをあれこれと伝えてくれた。別れ際に、尋ねたかったことをきいてみたら、彼女は「それとこれとは別だから、大丈夫」と笑っていた。
1時間半くらいで用事を終え、渋谷まで歩こうとしたら、まだ彼女がお店にいたので、外から手を振るとこれから帰るというので、三人で歩く。すこし遠回りだけれど、裏道をえらんで歩く。
ところどころに金木犀がたくさんあるようで、夜道に匂いが流れてくる。おもいきり鼻を近づけるよりも、風にのってくる香りがたまらないねと話す。
うんうんと頷きながら「白粉花(オシロイバナ)って知ってる? 夜道には、白粉花もいいよねぇ」なんて彼女。
さっきの立ち話以外に、もっといろいろ話したいこともあったけれど、どんどん新しく変わる街並みの様子にただただ驚いたりする。歩きながら流れてくるというか、ただ湧き起こる話しをつづける感じ。
ちょうど同じ日の夕方、街でわたしの身体が限界モードになってしまい、やむなく駆け込んだ足裏マッサージ店の前をまた通り、思いほか効いたことなどを話す。整体も学んでいた彼女は「秋は左肘をあたためると、上がっていた気が下がってよく眠れるよ」などと教えてくれた。
途中、裏道が終わるあたりに、とてもおおきな金木犀の木があった。花の塊がたわわで、うす暗い夜道にミカン色の花が一段と映えるようだった。裏道から出てしまうのは、すこし心さびしかったけれど、そこに大きな金木犀が生えていて、その匂いが漂っている、そのことがとてもうれしかった。
*
クルックでの展示「お店の中の【世界】」、ソーイングテーブルでのひととき展も無事終了し、ご感想ノートにたくさんの方たちが、いろいろな呟きを残してくださいました。
ひとつひとつ、大切に拝読しています。
遠くから近くから、展示にお立ち寄りくださったみなさま、展示にご協力いただいた沢山のみなさま、
ありがとうございました。

by tariho 2007/10/10