四国 徳島・神山町
徳島から一時間少々。ゆずり合わないと車が通れないような道をところどころ抜けて奥へ進むと、緑の谷間にひろがる小さな町に着きます。
リビングワールドは仲間たちと、いまこの町・神山町のNPOのためのコミュニケーション・デザインの仕事をお手伝いしています。完成は来年春。
人づてに打診を受けたのは8月上旬。電話で少しお話して、その数日後には神山町からお二名、東京まで会いに来てくれました。
一ヶ月後、LWフェローのトム・ヴィンセントと神山へ。
9月中旬、二泊三日の滞在。初日に町を案内していただいて、彼らの話を聞き、その晩にアイデア出し。翌朝、町の方々に提案して、午後はじっくりディスカッション(写真はその時の様子/右端がトム&西村)。
この町も過疎が進んでいます。道路事情が悪く、トンネルや道路拡張がみんなの悲願だった。
道路工事はここ十数年のあいだに何度か行われ、以前に比べるとずっと便利になった。が、実際には、交通の便が良くなるたびに、若い人は外へ住まいを移してしまうらしい。
山間とはいえ、四国の他の田舎町に比べると地形が優しく、畑のつくりにもゆとりがある。トム(今回はアドバイザーとして参加してもらっている)はイギリスの田舎と通じるものを感じているようで、嬉しそう。
この町には、グリーンバレーというNPOがあり、9年前からアーティスト・イン・レジデンスの活動を重ねている。毎年秋に、国内から一名、海外から二名のアーティストを招聘し、二ヶ月間滞在して作品を製作。
「おもしろい人たちが集まれば、おもしろい人たちがついてくるだろう…」という発想から始めたらしい。
実際、この活動をきっかけに、27名が神山町に移り住んでいるというから素晴らしい。
町から拠出される100万円少々の予算をベースに、あとは自分たちで切り盛りしている、手づくりの文化事業だ。
2007年の参加アーティスト・内海聖史さんの作品。NPOグリーンバレーの手で復活した「寄井座」という古い演芸場で製作・展示された。オレンジのパーカーを着ているのは今回の制作メンバーの一人、デザイナーのソーマカズオさん。
僕らが「おもろい!」と感じ、この人たちのお手伝いをしてみようと思ったきっかけは、グリーンバレーの人たちのメンタリティにあると思う。
「やってみないとわからないことは、やってみないとわからない(笑)」という、身軽なフットワーク。思いついたことを、出来るところからどんどんやっている。
また、専門家と称されるたぐいの外の権威に対して、へりくだった態度が微塵も感じられない。
先の絵の制作風景。内海さんは、絵の具そのものの色の美しさをテーマに絵画制作を行う。人柄の良い好青年で、町の方々に溺愛されていた。
9年前、はじめてレジデンス・プログラムを始めた時は右も左もわからなくて、プロのアートキュレーターを雇ったそうだ。初年が成功し、さて二年目という段になってそのキュレーターから「ここの特色を出してゆこう」と、選考の方向性が提案された。
が、町の人たちは少し「めんどう」な気持ちになってしまったらしく、「もうええわ」とキュレーターさんを解雇(すこし気の毒)。
以後、世界から集まる150件ほどの応募審査は、アートについては素人の町の方々(NPOグリーンバレーのメンバー)が自分たちの眼力で行っている。
結果として、過去の作品には「……」という感じのモノも多少見受けられるのだが(そもそも美大はアーティストを輩出しすぎです)、それでも清々しいし、なんといっても活動が健康的だ。
アート”業界”のことは、まったく気にしていない。
おもしろい人が世界の裏側から来て、二ヶ月間、一緒に過ごしながら見たこともないものをつくる。その付き合いが楽しいからやっている。そんな感じだ。
この町と世界をむすぶコミュニケーション・デザインの仕事。春の完成にむけて、また経過を報告します。
(つづく)
by 2007/12/2