
金子硝子工芸を訪ねて
先日、展示会・FOR STOCKISTSで会った方々から、リビングワールドの砂時計はどこでつくっているの?という質問をよくいただきました。
ガラスの砂時計部分は、葛飾の金子さん。木枠は旭川の国本さんにお願いしています。
写真は金子實さん。「国内唯一の砂時計職人」とテレビで紹介されることが多いようですが、わたしたちが聞き及んでいる限りでは新潟にも一人、砂時計職人さんがいらっしゃるみたい。
個人の職人だけでなく、フラスコとかビーカーを製造している工場も砂時計をつくることはあるみたいですが、8の字型でなくストレートで単純な形のものが多い。
私たちが慣れ親しんでいる8の字型砂時計の、国内の約8割を金子さんがつくっている、という話を聞くと、つまり工場の間尺には合わない仕事なんだ、ということがわかります。
平たく言えば手間がかかる。
金子さんの工房を8月に訪ねた際、その手間の一部を撮らせてもらいました。:-)

標準的な5分計づくりの始まりです。
まず、ガラス管を回しながら均等に熱して、砂時計ひとつ分の素材に分ける。(成型前のパン生地みたい)


この先は座っての作業です。写真のバーナーで熱しながら、回しながら、熱しながら…の手元を見ていると、あれよあれよと砂時計が姿をあらわす。


なにが起こっているのか、近くで見ているわたしたちにも良くわかりません! どんな力の加減で、この形が出来るんだろう。
細いくびれの部分を「蜂の腰」と言います。金子さんの砂時計はここの形がとてもいい。「一発で決める方がきれい」と本人談。
中国や台湾の砂時計を取り寄せてみたことがあるのですが、スッと伸びた美しさというか佇まいが、その時出会った品物については今ひとつでした。
金子さんの仕事を知っていることもあって、特に蜂の腰の仕上がりに納得できなかった。このくびれの部分は、つくり手の経験やコンディションなど、いろいろなものがあらわれやすい要所だと思います。
ほぼ砂時計の形になりました。
けどこの後は、中に入れる砂の粒の大きさや時間に合わせて、砂の通り道の径を調整。これは再びバーナーで熱しながら、針を通して揃えます。
終わったら砂を…まだ入れないで、ガラスを割れにくくするために全体を525度に再度熱して除冷する、一晩の工程が。これは金子さんのところには機材がないので、注射器をつくっている近所の別の工房に頼んでいるそうです。砂時計、なかなか完成しません。


先ほどキャプションに書いたとおり、この工房の砂時計づくりはお父さんの代から。實さんが手伝いを始めたのは高校生の時。「中に入れる砂をどうつくるか?」「ちゃんと時間どおりに落ちるのか?」というレベルから始めた手探り。「でもその苦労が勉強になりましたね」、と言います。
砂を洗って、フィルター(ザル)でなんども漉し、粒子を細かく整えます。

以前、ある日本の計量器メーカーから「正確な砂時計を作れないか?」と相談され、集中的に試した時期があったそうです。その結果、ガラスとの相性や粒の揃い具合において、砂鉄がもっとも適していることがわかったとか。
日本製の砂時計に砂鉄が入っているのは、金子さんの工房が、その出自だったんですね。
工房には、世界各地の砂の入った砂時計が並んでいます。近所の人が「息子がハワイで結婚式挙げて、マイアミビーチの砂を持って帰ってきたから、これで引き出物の砂時計つくって」とか、ビニール袋に砂をぶらさげて訪ねてきた現場に居合わせたことがある。
「砂を洗って、使えるようにしていく工程はほんとうに大変」と金子さんは言います。
が、でも「いろいろつくれるのは楽しい」とすぐ言い添えるので、基本的に好奇心が強い人なんだと思う。手を抜けないタイプ。
そして砂を入れて、分数や秒数を測り。確認してから、空いていたガラス口の片方を閉じて…。
と、後半は一気に省略しましたが、やっと砂時計が出来上がります。自立型の砂時計(関係性や太陽・月)に至っては口を閉じた両端に、軸に対して垂直かつ揃っている平面をつくるという、素人ながら想像すると緊張する工程が待っている。
応接室のソファーの主は、この犬。わたしたちは、金子さんの工房を訪ねるのが好きです。
夏場もバーナーの火を使うこの大変な工程を経て、一日に出来る砂時計は、簡単なもので30個程度だとか。
こんなふうにして砂時計が出来ています。そして次は木枠の工程ですね。来月10月に旭川を訪ねるので、それもまたレポートします!

by 2010/9/20