フリーチェアーの町

少し前に、途中でプロジェクトが止まってしまった沖縄のあるリゾートのための「ネイチャー オブ トゥデイ」というアイデアについて書いたが、その時に提案していた不思議な別アイデアを思い出したので、懐かしさを楽しみつつ書いてみる。
アイデアというより「報告」のような提案だった。

いまから20年ほど前、会社員時代に、僕は休暇をとってフランスへ個人旅行に出かけた。
で、「タラソテラピー(海洋療法)なるものを体験してみたい」と思ったのだろう。どこかの案内で訊ねて行った先は海沿いではなく、スイスに近い内陸部のエクス・レヴァンという町。リヨンの東、約70km。

Aix-les-Bains - France

この町には国立の温泉療養所があり、治療や静養目的で長期滞在している高齢者が多かった。靴屋さんの店先に健康サンダルが並んでいたのを憶えている。
ホースから放たれた高圧の水に打たれたり塩水で鼻洗浄したり、温泉療養所でタラソを体験して、ふらふらーと町に出かけると大きな公園があった。

その中に足を踏み入れてゆくと…木陰に椅子が見える。

またポツンとある。
現代美術?

というわけではなく。ただ、やたらにたくさん椅子がある。
で、それらがつくり出している情景が、なんだかわけもなく可笑しい。たとえばこんな感じ。:-)

この公園では椅子がフリーウェアというか、フリーアドレスなんですね。
固定式のベンチを置かずに、動かせるサイズの(嵐で飛んでしまわない程度には重い)スチールの椅子がいたるところにあり、人が使いながらその位置を少しづつ変えている。

並べて遊んでいる子どもたちもいた。

さらに奥へ進んでゆくとこんな感じ。ギャザリング中!っていうか、なんだろうこの愉快な感じは。小さな語らいの空間が、花のようにあちこちで咲いている。椅子を媒体にして。

公園の最深部にはこんな野外劇場がありました。

ここが椅子たちの生まれ故郷というか、震源地。太陽系の彗星でいえば「オールトの雲」のような。

さて。この魅力はいったいなんでしょう?(僕はすごく魅力を感じたし、いまも感じるのだけど)
まず、「人のアクティビティで風景が変わってゆく」ことが面白い。こんな風景のつくり方・生まれ方があるんだな。あとなんと言っても、「誰かが過ごした〝時間〟が残像のように残っている」ことですよね。こんなふうに。

先の沖縄のプロジェクトではこの写真を紹介して、リゾートの敷地内はもとより、島内(瀬底島)のあちこちに同じくフリーの椅子を量的に投下してみるのはどう? と提案した。旅人にも、島の人たちにも、腰を下ろせる「とまり木」がいくつもあるのはいいんじゃないかと思って。

しかしあらためて考えると、ほかの町にもいいかもしれない。とくに田舎はいけると思うし、都市部でも面白いんじゃないか。

相続税を支払えずに土地を物納する人が多くなり、でも児童公園を増やしてもしょうがないし…という状況が既に十数年つづいていると思う。「砂場・ブランコ・すべり台」の三点セットの公園はさすがに増やさないにしても、敷地外周に沿ってベンチの並ぶをついつくってしまいがちなんじゃないか。でもそれはコミュニケーションのためのしつらえではない。

誰か、どこかの公園や地区や町で同じようなアイデアを形にしてみませんか? 実現したら教えてください。腰をおろしに行きたい!
 

by 2012/7/31