
『「在外」日本人』
13-08-24 西村佳哲
部屋の本の片付けに取り組んでいる。明日の朝、吉祥寺で古本屋を営んでいる知人が受け取りに来る。
柳原和子さんの『「在外」日本人』という本がある。晶文社の一冊。厚い。
海外40ヵ国、65都市を渡り歩いて、その地で生きる日本人・108名の声を聞き取ったインタビュー集。20年ほど前に読み圧倒された。
「戦後50年、海外在住の日本人はいまや三百万人にのぼります。異国で、彼らは日々何を感じ、何を考えて暮らしているのか? 彼らの目に、世界と日本はどのように映るのか?」(カバー袖より)
読み返す機会はもうないかもしれない(厚くて)。でも僕はこの本のまえがきが大好きで、あらためていま書き写しておきたい衝動に駆られた。
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お元気ですか?
東京で、私は忙しいはずなのにいつも退屈でした。
一日はまたたくまに消え、たくさんの人と会っても誰のことも思い出せないうつろな日々。
今、アマゾンの上空です。空から見る森は微動だにしません。
昨日まで夢中で原生林を歩き回っていました。一足歩むごとに森の賑々しさにおどろきました。
一本の樹、虫の息、蜘蛛の糸の輝き、コウモリの昼寝、蟻の群れ、落ち葉を食む微生物───あらゆる生きものが、僕はここにいる、と自己主張していたのです。
一瞬一瞬、微妙に表情をかえてゆく森の一日は信じられないほど長かった。陽光はひそやかに時を刻みます。虫一匹を眺めていただけなのに、旅立つ前の私には一生かかったとしても得られないほどの感動を手にしました。
数に寄りそい、かたちにこだわるこれまでの欲張りな生き方は、森の力の前で白々と色褪せていきます。そこでは、一枚の葉、虫、微生物が人とまったく等価な存在だったのです。
旅にでてよかった。見失いかけていた旧友、あなたとのかけがえのない友情を再発見することができました。
やなぎはらかずこ
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書き写しだけで終わるブログ記事は、読み手としては不満足だ。でも加えたいことがない。
一日は短くないと思う。
by LW 2013/8/24