かかわり方のまなび方

ちくま文庫版

2014-10-08 西村佳哲

2011年2月に出版していた『かかわり方のまなび方』という単行本が、ちくま文庫から装いあらたに(というか同じデザインで)出版された。

単行本の内容に加え、文庫版あとがき・補稿・解説が付いている。
解説文は北海道「べてるの家」の向谷地生良さんが書いてくださった。思いっ切り響く内容で、いやあ、嬉しかった。これからお葉書を書く。

書き下ろした文庫版あとがきの一部を転載します。心に触れるものがあれば、本も読んでみてください。

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〝この文庫本にまとめられているのは、働き方の研究とほぼ同時期に、その裏で、きわめて個人的に展開していた〝対人関与の技法や姿勢をめぐる探訪〟のレポートです。
(中略)
20代後半から30代中頃の自分は、働き方というか「やり方」を知りたかったわけです。もっと上手な仕事の仕方、グループワークの進め方があって、自分はまだそれを知らないと思っていた。

 でも、他人と違うやり方がどこから生まれているかというと、その端緒は本人の実感にある。実際に感じていること。小さな違和感をスルーしないで「なんだろう?」と確かめたり、納得がいくまで握力を弱めなかった結果として、やり方も変わっているし、その先の成果も生まれている。

 つまりこの人たちは「いま自分が感じている」ことにかなり忠実に働いているんだな、ということがよくわかった。「やり方」の奥には「あり方」があったわけです。そこがなによりも違うんだなと。
働き方方面から掘っていた穴と、かかわり方(ワークショップとかそのファシリテーション)方面から掘っていた穴がそこで貫通します。
(中略)
きっかけは、晶文社版の『自分の仕事をつくる』を読んだ筑摩書房の喜入冬子さんがくださった手紙です。一緒に本をつくりませんか、と声をかけてくれた。

 でもその頃の自分は、2冊目の『自分をいかして生きる』を書いたことである程度気が済んでいたし、奈良県立図書情報館における「自分の仕事を考える3日間」のシリーズも見えていて、仕事や働き方についてこれ以上書きたい気持ちが湧かず。

 で、お手紙から2年くらいした頃に、「ワークショップとかファシリテーションとか教育とか、対人関与のあれこれをめぐる探検報告書を書かせてもらえませんか?」という相談を差し上げました。

 喜入さんからは「働き方・三部作の完結編」を期待されていた感があったので、それに真っ正面から応えられないのを申し訳なく思いながら。
仕事や働き方に関する一連の本があるとしたら、これはそこから外れるというか、外伝みたいな一冊になってしまうなあと。

 でも考えてみると、「やり方」から「あり方」に向かい、そこから「かかわり方」に至る流れは理に叶っているし、今回あらためて読み返して、これは働き方の本でもあるなと思いました。
言い切ってしまうけれど、どんな人も一人では働いていない。その自覚と対象の見え方の後を追って、仕事の質は変わるのだと思います。
同時にそのとき仕事の意味は、なんの役に立つとか社会的意義があるといった実利性に加えて、互いの存在を喜ぶという2本脚で立つものに、あり方を変えてゆくと思う。〟

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あらためて「書けて良かった」と思う一冊になったな、と思う。この本の背後には、最初に書いた『自分の仕事をつくる』以上に、たくさんの人の存在を感じています。

冒頭に登場する西原由記子さん(東京自殺防止センターを立ち上げたひと)との座談というかお話を、補稿として、文庫版あとがきの後に収録している。

その西原さんは今年・2014年の春先にお亡くなりになりました。先日、ヨーガン・レールさんも亡くなったと知った。「石垣島で」という記事を読み、どこか安堵した自分がいます。
思えば馬場浩史さんもいないし、働き方やかかわり方について、20代の頃から一緒に旅をしてきた森川千鶴や渡辺保史も逝ってしまった。

なんかもう、鎮魂ばかりでやんなっちゃうんですけど。

淋しいけど悲しくはないな。
亡くなった人もいるけど、これから産まれてくる人もいる。僕らは開きっぱなしの蛇口の下のコップのようなもので、身体の細胞もどんどん入れ替わるし、個人という単位のいのちも日々入れ替わってゆく。

そして世の中は、どんな方向へ向かうんでしょうね。
問題だらけの日々を、ジタバタ生きてゆきたい。

そんな只中で、懸命に書きました。

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by LW 2014/10/7