高校生に薦めた2冊

2015-5-23 西村佳哲

最近かかわっているGoogleのプロジェクト「イノベーション東北」の一角で、「福島の子どもたち(高校生)の世界が広がる100冊を選ぼう」という活動が立ち上がり、自分も2冊の本を推した。

求められたのは「あなたと同じ仕事を目指している子どもに薦めたい本」と、あともう一冊。

しばらく考えて、前者には中村好文さんの『住宅巡礼』を選んだ。推薦文はこんな感じ。

──ある建築家が、世界各地の「名作」と呼ばれる住宅建築を見て回った訪問記です。文章はもちろん、絵も、全部自分で描いている。ビルや公共建築とちがって、住民が日々暮らしているわけだから、住宅は中を見せてもらうのが難しい。けど、手紙などで熱心に頼み込み、飛行機に乗って、一軒づつ訪ねてまわってきた、数年にわたる彼の旅の中間報告書です(続編も出ている)。


好きなこと、自分が「たまらない!」と感じることは、採算度外視でとことんでやってしまう方がいいみたい。突き抜けてしまう方が。頼まれるから出来る建築設計という仕事をしている人が、誰に頼まれたわけでもなく始めた旅を経て、彼はますます人気の建築家になってしまいました。──

この本はすごい。

僕は30代前半、働き方研究を始めて、いろいろな方の仕事場を訪ねていた。で、インタビューをして写真を撮って、あと妹尾河童さんに倣うような気持ちで訪問先の様子を描いては(下)、副ADのOさんから「西村さん。写真、もうちょっと頑張って欲しい…」「絵も」と渋い顔をされていた。

AXIS誌の連載に添えていたイラスト。前川圀男さんの建築設計事務所(四谷)の半地下にあった「柳工業デザイン研究会」工房。

ちょうどその頃だ。『住宅巡礼』にまとまる前の、好文さんがコンフォルト誌に寄稿した数ページの記事を見て、打ちのめされたのは。
「好き」の強度と、その好きを「他人とわかち合う意志」の強度にヤラレた。

今回「高校生に」と彼の本を選んだのは、本人が「いい」と感じていたり、関心を抱いたことについて、とことんやっている大人の姿が垣間見えることが、一つの手がかりになるかもしれないと思ったからだ。

でも「あなたと同じ仕事を目指している子どもに」と問われて最初に思い浮かんだのは、実は好文さんではなく宮脇檀さんだった。
宮脇さんは住宅設計の名手として一時代を風靡した方で、随分前にお亡くなりになっている。

僕は中学生の頃、彼と、あとムツゴロウさんの本が好きで、図書館で借りて読み耽っていた。

高3で進路を美大に決め、浪人中に「グラフィックより立体だな」と思って工芸工業デザイン学部に微修正して、2年後インテリアデザイン科に専攻を決めていったのだけど、その補助線は中学生の頃から引かれていたんだなと思う。

こういうのは時間が経ってから事後的にわかるところが面白いな。そして最近、また住宅のことをよく考えるようになり、同時に建築方面の仕事も増えてきているのが不思議だ。

80年代の香りがする。宮脇さんは小さな都市住宅を数多く手がけていた。

当時、宮脇さんは男手ひとりで娘さんを育て、というか一緒に暮らしていて、彼の住宅エッセイにはその生活の様子もよく書かれていた。

本のどこかに、「リビングに応接セットを置くより、大きな食卓をしつらえて、新聞も広げれば家事もするし、対角線上で仕事をしたり宿題をしていたり、別々のことをしながら一緒にすごせる。そんな家族の場所を暮らしの中心につくるといい」といったことが書いてあったと思う。

で、うろ覚えだけど、1,400mm角のテーブル寸法を推された気がする。
いちばん上に載せた図版が、その文章に添えられていた挿絵ではないか(先ほど検索で見つけた。とすると、中学生の自分が読んでいた本は『日曜日の住居学』なのかも)。

この本を推しても良かった。
けど、当時の時代背景もあり「都市でいかに豊かに暮らすか」という視点が基軸として強かったので、今の時代感覚からは外れてしまう部分がありそうでやめた。

とはいえ、家という器が、わたしたちに日々与えている精神的影響はとても大きいと思う。
「どんな仕事をしよう」とか「なにをして生きてゆこう」とか、多くの人は自分が「する」ことばかり考えがちだと思うけれど、どんなふうにこの世界に「いたい」か、「いる」ことを可能にするかということも考え、実践していけるといい。住宅を考えるとは、そういうことなんだ。

家のあり方や住まい方は、日本の近現代史の中でダンッダンッと分断され、わたしたちは根無し草状態にあると思う。
好文さんの本も宮脇さんの本にしても、名建築がどうこうという話ではなくて、「この世界にこんなふうにいれる」というイメージが広がるところがいいなと感じていて、高校生にも推してみたくなった。

ところで「1,400mm角のダイニングテーブル」というアイデアは中学生の脳内に着床し、その20年後に自宅用としてオーダーされる。
しばらく使っていたが、諸般の事情から「三田の家」に預かっていただくことになり、慶應の先生や学生さんたちに数年間いー感じで使い込んでもらって、いまは坂倉杏介さんのシェアオフィスに鎮座している。

少人数でも大人数でも使い勝手がいい。「1,400mm角のテーブル」は、またつくる日が来る気がする。家というか暮らしの中心に大きめの食卓を据えている感覚は、オフィスの計画にも、まちのプランニングにも応用可能だ。三田の家ですごした人たちはその「感じ」をよく知っているわけで、めいめいの仕事にその経験はどう反映してゆくかな。(写真:石神夏希さん等の「ペピンブログ」より)
 

ところでもう一冊には、クリス クラッチャーの『ホエール・トーク』を推した。

──海外のヤングアダルト文学をたくさん翻訳している金原端人さん(芥川賞作家・金原ひとみさんの父親)が「とにかくこれを読んで!」と渡してくれて、僕も読み終えてからたくさんの人に、「とにかく!」と推してきた一冊です。
アメリカの高校が舞台。DV、人種差別、いじめ、児童虐待。しょうもない事々に胸を痛めながら、吹き飛ばすように生きてゆく主人公たちとすごすひととき(読書の時間)を楽しんでみて。


どんな家庭に生まれ、どんな環境で育ったかということが、本人の人生を決めてしまうように言われることがあるけれど、「にもかかわらず」展開してゆくのが生命の本質です。そっちへ向かうエネルギーに満ちた本だと思う。いま書店では入手できないけど、福島の図書館にもあります(https://calil.jp)。──

クラッチャーは小説を書く仕事と併行して、臨床心理や児童養護の活動も行っているという。

生きてゆく中で気をつけたいのは、思考の幅が狭まって「この道しかない」といった言葉を洩らすようになってしまうこと。そうなりたくないし、他人にもそんな影響は与えたくない。

自分とは違う人生をおくっている人たちに、なにか薦めるのは難しいものだなとあらためて思いながら選んだ。読んでくれる人、いるといいな。

by LW 2015/5/24