ネイチャー オブ トゥデイ

Nature of Today

for UDS, Sesoko resort project(2008)

UDS(都市デザインシステム)による沖縄・瀬底島でのリゾートホテル計画の中で進めていたプロジェクト案です。最初もらっていた相談は「風灯:Solar」の常設展示でしたが、計画地に通いながら別のアイデアとして提案しました。

瀬底島は名護の西。美ら海水族館の少し手前にある島で、橋がかかっています。島の西側には沖縄でも屈指の透明度を誇る珊瑚礁があり、海に沈む夕陽を堪能できる素敵な場所です。

海図の中央から少し左にある縦長のナンのような島が瀬底。


そのビーチの手前は以前ゴルフ場として開発され、バブル以降は放置されていました。

UDSはコーポラティブハウスの企画・設計・運営分野で成長していた企業です。代表は梶原文生さん。担当者は黒田さんという若い方でした。

計画の規模感は自分たちの理解をやや超えていましたが、その二人をはじめUDSのスタッフに好感を抱いて、わたしたちもかかわることに。

フェアウェイの地形はそのまま触らずに、点在するコテージ群とセンター棟からなるリゾートをUDSは計画していた。


ホテル・チェックインはカウンターでなく、フロント前のラウンジに腰を下ろしてもらい、スタッフが必要な資料を持ってくるスタイルが検討されていました。

たとえば男性が手続きをしている間、連れの女性や家族は、ただ待たされていることが多い。けど、その時に併行して目を通し始めることの出来る、素敵な情報があるといい。
到着したばかりなのだから、ここはどんなところなのか。いま島のどの辺りにいて、これからどんな時間を過ごせそうか。

海に近いリゾートには、塩害のこともあって外と中の連続性を気密性高く区切ってしまう建築が多い。ある程度仕方のないことだけど、外に出ればそこは文字通りアウトドアです。部屋やホテルの外に誘う地図があるといいんじゃないか。

それを毎日内容が変わってゆく、日々の自然を伝える、自動生成型のプリントシステムとしてつくれないか。

「Nature of Today」は折りたたみ式の島の地図(裏面はホテル・センター棟の案内図)と、チェックイン時にプリントされる一枚のカード(左端)で構成されている。


カードの表面には、チェックイン時からむこう24時間分のナチュラル・イベントがプリントされています。

いつ太陽が沈み、月が昇って、干潮になり満潮になるか。明朝の日の出の時刻。あれば、特別な星の動きも。小さな天気予報も。

デザイン案ではなく、考え方のサンプルとして描いたスケッチ。12時を真上にする方がいいですね。


裏側には、その時期に姿を見せる鳥や蝶、草花などの情報。最近数日間の気象の動きなど。
沖縄は日本列島とアジアの鳥の渡りの中継地点で、野鳥の半分以上が渡り鳥。つまり鳥たちの姿は日々入れ替わってゆきます。

西の空と海の展望が素晴らしい場所ですから、多くのゲストが「今日の夕焼けは何時頃?」とスタッフに訊くはずです。「はい。今日は18:24ですね」と指で差しながら答え、会話がつづく。

またここの珊瑚礁はとても広く、満潮と干潮で劇的にその姿を変えます。こんなふうに。つまり一日の中で楽しみ方が大きく変わる。

面積の広い珊瑚礁は、潮位差の激しい日は特に危険です。外海へ向かう潮の流れが強い水路が必ずいくつか生じるので、その位置やタイミングを把握していないと事故が生じかねない。こうしたリスク管理の面からも、海の動きを伝えてゆく必要が生じるはず。

自然のただ中では、楽しむことと、身を守るための情報源が同じです。それらをうまく織り交ぜながら伝える仕組みの提案でした。

またこのカードは、自分が滞在した「その日だけ」の固有のものなので、思い出としても嬉しい一品になりうるんじゃないか。

瀬底島に何度か通いながら、そんなアイデアを提案し、つくり始めようとしていたんです。
どんな自然情報のデータベースをつくろうか。ホテルスタッフのみなさんの自然ガイドのスキルをどんなふうに育てることが出来るかな。どんなふうに描かれた地図を片手にすると、人はより島を探索してみたい気持ちになるだろう。

そんなプランニングを進めていたある日リーマンショックが生じ、その余波でUDSも一度倒産(その後民事再生法によって再生)。プロジェクト自体は建築工事半ばで宙に浮いてしまった次第です。

思い出すと少し胸がキュッとします。心から形にしてみたかった センスウェア の一例でしたけれど、いつか別の形で。(文・2012-4-7)

ビーチで会った、やさしい目の闘牛・琉桜吹雪はどうしているかな?

by LW 2008/8/1