Nov 5, 2021

先日、小淵沢のナイスタイムカフェ(nice time cafe)を訪ねた。この日お店はお休みだったけど店主の中村さんは快く迎えてくれて、美味しいご飯と、お茶と、美味しいデザートまで出してくれた。

ナイスタイムは以前、東京の下高井戸にあった。私はこの店によく通っていて、彼が淹れてくれたコーヒーで何冊か本を書き上げている。つまり大変お世話になった。『いま、地方で生きるということ』の冒頭に描いたミシマ社・三島さんとの一場面も、ナイスタイムでの出来事だ。

中村さんと彼の家族は、その後思うところあって東京を離れることを決め、最初は甲府に新しいカフェを開いた。が、そこはすぐに閉じて、2年とすこし経ってから現在の場所にカフェとご自宅を構え直した。

この日はお休みだったので、中村さんとゆっくり話を交わせた。

わけあって甲府のお店を閉じたあと、この土地が見つかったものの、大工さんの都合で着工に時間がかかり、待っている間、それまでにしたことのない仕事(倉庫管理とか)で生活費を稼ぎながら、「早くカフェの仕事がしたい!」と思っていたと言う。

もう少しきいてみると「自分には他のことがあまり出来ないから」と恥ずかしそうにしながら、「でも〝ナイスタイムカフェ〟は誰よりも出来る」と今度は少し嬉しそうに語られて、この言葉が白眉だったな。
料理でもカフェでもなく、彼は〝ナイスタイムカフェ〟をやっている。そしてそれは「これが自分です」と差し出すことが出来るし、本人もそう感じられる仕事なんですね。

やればやるほど本人でなくなってゆくような仕事をする人が多い社会より、やればやるほど、本人がより本人になってゆくような仕事をしている人が多い方が、なんだ? 面白い。生きている甲斐があると思う。

東京を離れて山梨へ移るとき、次のカフェの名前を変えるつもり満々で考え中だった彼に、私は「変えない方がいい」「〝ナイスタイムカフェ〟でつづける方がいいよ」と話していたらしい(憶えていない)。
当時のお客さんが検索などで「小淵沢にある!」と気づいて来てくれることもあり、変えなくてよかったと笑っていたけど、それはともかく変えなくてよかったよね。中村さんは飲食業でなく、〝ナイスタイムカフェ〟をやっているんだからな。

 NICE TIME CAFE oigamori
 山梨県北杜市長坂町大井ヶ森 34-2
 https://www.instagram.com/ntc_oigamori/

トランペットも吹くひとで、最近また少し練習する時間が出来てきた、と語っていた(足下に見える)。友人であったり、知り合いであったり、私にとって周囲にいる他人の姿は、自分がいい人生を生きていることを感じられる大事な要素だ。姿が励みになる。

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