
Jul 20, 2022
奈良県立図書情報館で、同館の乾聰一郎さんや、友人の友廣裕一さん、くるみの木の石村由起子さんと「BOOK, TRAIL」というイベントをひらいた。『一緒に冒険をする』のもとになった3日間のフォーラムから、そうか、7年になるんだ。
〝本を読みながら、あなたが考えてきたこと〟という副題。各自3冊選んで持ち寄る約束で、自分は「何度もくり返し読んだ」本を選んだ。好きな曲はよく聴き返すけど、本や映画だとやっぱり限られる。でも結構ある。
選んだのは、まずル・グウィンの『パワー』。「力」(超能力というより普遍的な力)を持ついろいろな人間が登場する物語で、主人公は彼らにねじ伏せられるというか、ときには潰されたり、殺されそうにもなりながら、しかし全力で逃げる。
何度も読み返してしまうのは、いまの社会の写しのように感じているからだと思う。そして、自分はその必要があることから本気で逃げているかな。逃げ切るってどういうことだろう、と考える。
次は10代の頃から何度も読み返してきた萩尾望都の『11人いる!』。別々でバラバラな個人(I)が、有機的な仲間(We)になってゆく過程の暖かさ。人生への期待。純粋さの力など、大好きな要素が多い。SF作品なのに上手と言い難いメカの味わいもいい。
最後に絵本『プンクマインチャ』を開いてその話をした。乾さんに「3冊ともファンタジーというか空想の話。西村さんはそういうのが好み(笑)」といじられた気がするが、んなこと言うまでもないでしょ!と思った。十二支は辰年。動物占いはドラゴン。生まれながらに浮世離れしているんですよ。ほっといてくれ(笑)。
この絵本は「小さなころ、あれを何度も読んだよな…」と思い出しながら、タイトルも作者もわからずにいたのだけど、前々日の夜、妻に「すごく怖い絵本」「でもわからない」と話したら、「プンクマインチャでしょ」と一言で彼女の本棚から出てきた。
読み返すと、あいかわらず怖い上に、話としてわからないところが多く、民話の不条理さを再体験した。「あれはなんだったの?」という回収されない伏線や理不尽さがいくつもあって、読み手にひらかれている。
作者の秋野亥左牟(いさむ)さんのことを今回ようやく知った。日本画家のお母さまがインド大学で教鞭を取ることになり、現地に同行した亥左牟さんは、ネパールの民話を集めるようになる。藝大の彫刻科を中退していた彼はこのとき初めて絵を描きたくなり、衝動的に形になった初めての作品がこの『プンクマインチャ』だ。またたくまに世界で評価されたという。本人はそのあとも旅をつづけ、妻や子どもたちと、一時は沖縄の小浜島で漁師のような暮らしをしていたようだ。日曜美術館のアーカイブを見た。
「秋野亥左牟 辺境の向こう側を見た男」
https://www.dailymotion.com/video/x7ofieu
(挿入CMの音量に注意)
人生は「こうしよう」でなく「こんなふうになった」でいいと思う。振り返って「こんなふうになったなー!」と驚ける方がいい。