Nov 28, 2022

つき合いの長い友人から、「西村さんたち(センソリウム)がアルスエレクトロニカでつくった、植物園の中を歩く間に何が起きたかを腕時計型プリントアウトで可視化するプロジェクトの資料って、いまネット上にありますか?」という問い合わせをもらった。

センソリウム(Sensorium)は、文化人類学者の竹村真一さん、デザイナーの東泉一郎、その後Thnik the Earthを始める上田壮一、アートプロデューサーの小崎哲哉さん、当時はSFCにいた江渡浩一郎、GK Techの岩政隆一さんや島田卓也、音楽家の山口優、渡辺保史、トム・ヴィンセントが集ったインターネット黎明期のプロジェクトで、1995年頃から複数の制作を始め、手応えを感じ、96年にはアルスでいい賞もいただいて、それぞれの人生にひとかたまりの経験を残したと思う。

私(西村)は、その企画と制作とコーディネーションの中心あたりにいた。

センソリウムのウェブサイトは自分の不手際で、いま存在しない(数年前にドメインネームの更新を失念した)。友人が書いた「何が起きたかを可視化するプロジェクト」は、2000年につくった『While you were…』だ。「植物園」は思い違い。Dairyに載せるのもおかしな話だけど、大好きなプロジェクトをふりかえってみたいと思う。

オーストリアには9つの州があり、隔年ペースで地方博が巡回する。

2000年は北部の州がその順番で、リンツの西にあるウェルズという小さな街の中世の僧院が会場。

イベントは約半年。各州はこの地方博の開催に乗じて建築整備をすることが多いようで、この僧院も、終了後は市の文化センターとして使われると聞いた。国のスキームをそのこけら落としに活用している。

展覧会のタイトルは「ZEIT(時間)」。背景に世紀の変わり目がある。

センソリウムは、アルスエレクトロニカ・センター(リンツ)の1996年のフェスティバルで、ネットアート部門の金賞を受賞していた。そこから3年ほど経って、活動らしい活動はあまりしていなかったが、総合芸術監督のゲルフリートから「みんな元気?」「時間をテーマになにかつくらない?」というメールが届き、東京に来た彼とICCのカフェで打合せた。

『While you were…』の基本アイデアはこの日の会話から生まれ、私・東泉・岩政・島田・ヴィンセントあたりを中心に実制作を進めた。

チケットを買って展覧会の入口に向かうと、正面のスクリーンに、小数点以下6桁まで表示した時計がダーーーッと動いている。時間が流れている。

「ふーん…」と見入るオーストリアの方々。右手(写真奥)のキヨスクに赤いボタンがあって、それを押すとQRコードのシールがプリントされる。(奥で若者に説明しているのはゲルフリート)

台紙に貼ると腕時計になる。コードには、入場時刻のデータが入っている。

その先は胎内巡りのような感じで、メディアアートと古典的な展示が要り混ざった「時間展」がつづく。昔の暦。年表。

脱進機による「時計」の誕生。ガリレオによる振り子の等時性原理の発見(1582年頃)。振り子時計の発明(1656年頃)。時計の発明は、権力や、社会の近代化と強く結びついていて面白い。

そして聖堂へ。カタコンベの遺物も展示しつつ、この空間のテーマは永遠と死という感じでしょうか(こうした展覧会全体の企画にはかかわっていない)。聖堂から階段を降りると、最初の入口に戻ってきて、さっきは背中を向けていたキヨスクに「あなたのバーコードをスキャンして」と促される。

「ピッ」とスキャンすると、長いレシート状のものがプリントされる。

そこにはこんなことが印字されている。

「あなたがこの展覧会場に入った2000/9/28 13:47から、いまこの瞬間までのあいだに、アルプス山脈は0.00014397mm隆起し、195人の国籍を持たない子供たちが生まれ、宇宙から3.27tonの塵が落ちてきて、1種類の言語が地上から消滅し、地球は太陽のまわりを87,632km飛んでいる。」

数値は滞在時間によって変わる。「時間展」に行ったらこんなお土産がついてきた…という感じ。プリントを眺めるみなさん。結果は少しづつ異なるので、互いに見せ合ったり。

このおばさんたちのショットが好き。

東泉さんと二人で一週間ほど滞在し、街のスーパーで買ったものを食べながらインストールした。この頃インターネットの回線はまだ細くて細くて。でもプログラミング作業は終わっていなかったので、東京のGK Tech・島田さん等とつなぎつつなんとか形にしたけど、どうやったか覚えていない。とはいえ半年のあいだ無事動いたので素晴らしい。

東泉さんのグラフィックや総合的なデザイン判断は終始素敵。これは僧院の一室につくられた私たち二人の仮設の作業机。

つづいて、オーストリアの別のアートフェスにも出展。そのときはトムが行ってセットアップしてくれた。

 

センソリウムは、その前と後で自分の人生が変わってしまう不可逆的な体験だった。夢に出てきたことがあって、そのときは馬の姿をしていた。背中に乗って、いろんな場所を訪ね、初めて見る景色に触れ、たくさんの人に会ったな。

私は『While you were…』というタイトルが好きで、追って妻と始めたリビングワールドでは「ある時間の砂時計」シリーズをつくる。〝世界は同時進行〟って、なんとも言えない気持ち。起点の一つにはもちろん星野道夫さんの熊の親子の逸話がある。

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