May 30, 2023

2ヶ月前のことだけど、吉祥寺に移ったクレヨンハウスへ、岸本聡子さん(杉並区長)の話を聞きに行った。

新しいお店は、移転から3ヶ月経ったもののまだ引っ越しが終わっていない感じで、当日の会場だった地下の書店コーナーも、ともあれ本を棚に詰めましたという様相。クレヨンハウス代表で作家の落合恵子さんがマイクを握って、「ここの本はすべてわたしが読んで選んだものです」「〝We are what we eat〟という言葉は読書についても同じだと思う」「いつでも来て、ご自分の時間をすごしてください」と語りかけていた。

イベントは満席でおそらく80人ほど。男性の姿はちらほらで、ほぼ女性。年齢はさまざま。岸本さんの話は「欧州のミュニシパリズム(地域主義)」に関するもので面白かったが、それ以上に響いたのが最後の質疑応答だった。

彼女の話が一段落して、落合さんが「この機会に」と会場に声をかける。すぐに手があがって、最初の女性は割と質問らしい質問をしていたが、2, 3人目から質問以前の語りが長くなった。「介護の仕事をしています」「現場の人たちが疲れてしまっていて、むしろその人たちのケアが必要」といった前置きがしばらくあって、「杉並区ではどうお考えですか?」と質問になったり。

30歳くらいの女性が手をあげて話し始めた。

「多摩の小学校で美術教師をしています」「子どもたちに教えたくて教師になったけど、それ以外のやらないといけない仕事が多すぎる」「いじめられているとしか思えない」「学校から配られているパソコンも、起動するたびに15分くらいクルクルしているんです」「いい授業をしたい。そのためには自分も学んでいる必要がある、けどその時間がない」「気力も尽きてしまう」「なんとかやっている先生方はどこかであきらめている。支え合ってきた先生が一人いるけど『もう無理』と言って、来月末で辞めることになって」…と、質問というより「みなさん聞いてください」という切々とした訴えがこの方の後もつづいて、集まった人たちも落合さんも岸本さんも、もっぱらそれを聞いている時間になったが、私はクレヨンハウスの本性に触れたような気持ちで、むしろ来てよかったなと思いながら聞いていた。

もし自分がクレヨンハウスに別の名前を付けるとしたら、それは〝わたしたち〟という言葉になる。自分も含まれる。
その〝わたしたち〟はずっとやられっぱなしだ。エネルギーについても、人権も、税も、戦争についても。力づくで押さえ込んでくる勢力に負けっぱなしだなと思う。

でもそもそも勝ちも負けもないよな、とも思う。勝つことを想像したところで勝利感はない。ごくあたりまえのことが、あたりまえになるだけ。日常がおだやかになるだけだから。そこに勇ましさなんてないし、必要もない。

平和でいたい。本来怒るのが得意ではない人々が、「でもこれは怒るところだな」と自分の気持ちを言葉にしている。その気持ちをないことにしてしまったら、生きている意味がない。

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